一つめの合唱サークルに入る

   

 六月頃のことだったと思います。

 友人の部屋で遊んでいる時、その場にいた二人――知り合ったばかりの二人――と、サークルに関しての話題になりました。

 大学に入ったばかりの頃って、色々なサークルに入ってみたり、でも自分には合わなくて自然と行かなくなり辞めてしまったり、というのがありますよね。だから、自己紹介がてら「どんなサークルに入った?」という話になったのではないでしょうか。

 その際、二人が名前を出したのが、合唱団Kだったのです。


 別に彼らは合唱経験者でも何でもなく、誘われて適当に入った、という感じだったようです。でも私から見れば、合唱サークルは「入りたかったけれど、誘われてもいないのに自分から行くのは気が引けて……」という特別なところ。ある意味、羨ましい話でした。

 おそらく私は、自分の気持ちを正直に話したのでしょう。

「まだまだ新入生は募集中だから、変に気負うことなく、部室ボックスまで来ればいいよ」

 と言われて……。

 とりあえず、一人でも知り合いがいるならば行きやすい。そう思った私は、次の練習日に、合唱団Kの部室ボックスへ向かったのでした。


 合唱団Kの部室ボックスは、一年生や二年生の授業が行われる区画の南端にありました。大学全体としては『南端』ではなく、大通りを挟んだ西側には、もっと南にも別の施設や学部などがあり、その辺りは「南部」と呼ばれていましたが……。大通りの東側としては、合唱団Kの部室ボックスの辺りが南端に相当するのでした。

 余談ですが、私の学部も「南部」にありましたので、私は大学の北側よりも南側に詳しい学生となります。「中央」や「北部」は、もっぱら食堂へ行くだけでしたね。手続きなどで行く機会もありましたが。

 なお、合唱団Kの部室ボックスのある辺りは、一年生や二年生の授業が行われる構内の一部ではあるものの、構内を歩いていくには行きにくい場所でした。確か、テニスコートか何かの脇にある小道を通って、小さな林のようなエリアを抜けて、さらに学生寮の建物の中を通り抜けて、ようやく辿り着く……。そんな感じだったと思います。だから普通は、いったん大学の敷地を出て、バス通りでもある大通りを南下して、裏門のようなところから改めて入っていく。これが合唱団Kの部室ボックスへの行き方でした。


 そうやって大学の敷地へ入り直すと、ちょっとした森のような木々に囲まれて、木造の古めかしい会館が建っています。

 建物に足を踏み入れると、まずは二階へ続く大きな階段。サークルに入った後で知ることになるのですが、階段を上がれば、体育館のような広いホールがあります。民族舞踊研究会……みたいな名前のサークルが主に使っているホールだったと思いますが、そのサークルの専属ではなく、同じ建物のいくつかのサークルが共通で使う大ホールです。例えば合唱団Kは、月曜日と金曜日に、利用できる時間が割り当てられていました。


 視点を一階に戻して。

 階段下のスペースには、グリークラブの部室ボックスがあります。男声合唱だけがしたいのであれば、そちらへ行けば良いのですが、私の場合は合唱団Kへ入るつもりで来たので、そちらはスルーして。

 一階の廊下を歩き始めてすぐの場所にあったのが、合唱団Kの部室ボックスでした。

 部屋に入った第一印象は「薄暗いところだな」だった気がします。建物自体が古い上に、外も鬱蒼とした森のようなイメージなので、とにかく暗く感じたのでしょう。

 そんな暗さにはめげずに、サークルに入りに来た旨を告げると、あたたかく迎えられて……。

 ようやく、私の合唱生活のスタートとなったのでした。


 確か、最初に、合唱経験の有無を聞かれた覚えがあります。一応は小学校のクラブ活動でやっていたと言いましたが、それで「おお、経験者なんだね!」という対応をされたのは、半分は冗談だとしても、後から思えば「合唱団Kらしい」という感じでした。

 実は合唱団Kは、合唱経験者は少なく、大学から合唱を始める者がほとんどというサークルだったのです。一方、後々私が入る二つめの合唱サークルは、高校で合唱をやっていた人も多いサークルでした。それも、単なる高校の合唱部ではなく、コンクール強豪校の合唱部出身者もいる、というレベルです。

 少なくとも、当時の合唱団Kには「高校では合唱部だった」という者はいても、「コンクール強豪校で歌っていた」という者は一人もいなかったはず。そう考えると、やはり二つのサークルの雰囲気は、大きく異なっていたのでしょう。


 いわば合唱団Kは、音楽的にアマチュアの多い合唱サークルなのでした。入ったばかりの頃、上級生が「うちは常任指揮者の先生がいない合唱団だよ!」と言っていたのも、強く記憶に残っています。自分たちだけで自分たちだけの音楽を作る、というのが、一つの誇りだったのですね。


 このような観点から振り返ってみると、合唱を楽しむという意味で、最初のサークルが合唱団Kだったのは、私にとってラッキーだったのかもしれません。

 この辺りの「たまたま最初に入ったところが」みたいな話は、それこそ小説投稿サイトに登録する際にも、似たような話があるかもしれませんね。しっかり比較検討して選んだわけではないけれど、たまたま初心者には向いているサイトだった、みたいな感じで。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大学の合唱サークルを二つ掛け持ちするのは、複数の小説投稿サイトに登録するようなものだろうか? 烏川 ハル @haru_karasugawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ