その大学には三つも合唱サークルがあった
結局、私が合唱サークルに入ることはなく、新歓の時期も終わってしまいましたが……。
たとえ新歓で声をかけてもらえなかったとしても、ビラだけはもらっていたはずので、その気になれば、自分からサークルの
なお、現代ならば、少しでも興味があればインターネットで調べてみる、ということも出来たでしょう。でも私が大学に入学したのは、まだインターネットも電子メールもなかった時代です。もしかすると既に開発されていたかもしれませんが、少なくとも一般的ではなかったはず。
その数年前からモデム付きパソコンは売り出されていたので、パソコン通信は行われていましたが、それは「一部のマニアのためのもの」という感じでした。
そのような時代だったので、サークルのビラには、
本当に合唱に対する熱意があるならば、新歓テントとは無関係に、ビラからの情報だけで「どの合唱サークルに入ろうか」と吟味することも可能だったのですよね。
中に入らず、外からでもわかる違い。
まず、私が入学した大学には、三つの合唱サークルがありました。
厳密には、他にもあったそうですが、それを私が知ったのは実際に合唱を始めた後でした。そもそも、その『他にもあった』サークルは、私が入れないサークルでした。全学のサークルではなく、医学部オンリーのサークルだったからです。
少し余談になりますが、全学のサークルとは別に学部だけのサークルがある、というのは、一般的な話なのでしょうか? あるいは、私の大学が特殊だったのでしょうか? 例えば、私の学部は一学年八十名の小さな学部でしたが、そんな学部にも硬式テニス・軟式テニス・野球・サッカーという四つのサークルが存在するほどでした。
話を戻します。
全学の――誰でも入れる――三つの合唱サークル。
一つは「〇〇大合唱団」というように、大学名を冠したサークル。合唱団Kです。
合唱団Kの最大の特徴は、混声合唱も男声合唱も女声合唱も行なっている、ということ。ある意味、欲張りな合唱団ですね。また、音楽的な特徴とは別に、『サークル』的な特徴として、女性は他の大学からも招いている、というのがありました。いわゆるインカレサークルというやつです。
そもそも大学自体、男女比が偏っていて男性の方が圧倒的に多いので、混声合唱をするためには、京都中の女子大から女の子を集めないとパートバランスが悪くなるのでしょう。……という音楽的な理由とは別に、純粋に『サークル』として他の大学の女の子と知り合う機会がある、というのがポイントです。ただし、その辺りの内情がわかってくるのは、中に入った後ということで……。
続いて、二番目のサークル。「〇〇大学音楽研究会」という
こちらは、男声合唱や女声合唱は行わず、混声合唱のみ。ごく一般的な活動形態です。しかもインカレサークルではなく、同じ大学の学生だけで構成されています。上述の「女性が足りなくて、パートバランスが悪くなるのでは?」という問題はありますが……。
これも中に入ってからわかることなのですが、実は合唱団Kの方は、『女性は他の大学からも招いている』どころか『ほとんどの女性が他の女子大の学生』という状態なのでした。私たちの大学の女の子は、各学年一人か二人で、私の代には一人もいないほどでした。
だから、私の大学で合唱をする女の子は、ほとんどが音楽研究会Hへ。一方、男の子で合唱をする者は、もともと女の子に比べて少ない上に、複数の合唱サークルへ分散するので、それで人数比が何とかなっていたのかもしれません。
なお、敢えて「二つの複合唱サークルへ分散」ではなく『複数の合唱サークルへ分散』と書いたのは、二つではなく三つへ分散するからでした。
三つ目の合唱サークルが、男ばかりのサークルだったからです。サークル名に「グリークラブ」という名称が含まれており、合唱の世界では「男声合唱団」を意味する用語でした。
なお、Wikipediaには『かつては、男声合唱団の名称であった「グリークラブ」が、現在では混声合唱団や女声合唱団の名称にもなっているという現象もまた、日米共通のようである』と書かれているので、もしかしたら最近では「グリークラブ」の意味も変わっているかもしれません。でも、少なくとも当時の認識としては「男声合唱団」で良かったはずです。
このように、三つの合唱サークルは、三者三様なのでした。
音楽的に、男声合唱がしたいのか、あるいは混声合唱がしたいのか。
サークル活動として、他大学の女の子とも遊びたいのか、あるいは同じ大学の人間同士で集まりたいのか。
そもそも人間関係として、男同士で盛り上がりたいのか、あるいは女の子とも接したいのか。
真面目にサークルを吟味して選ぶならば、様々な観点から考えることも出来るくらい、バラエティに富んでいたわけです。
しかし私は、どこにも入ることなく、もう合唱とは縁がないものだと思って……。
大学生生活が始まって、二ヶ月が経過した頃。
そんな私に、一つの転機が訪れたのでした。
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