第8話 防犯カメラ

 真一郎は帰宅して初めてポンプの紛失に気づいた。今日は30キロほど走って汗をかいたが、愛車のミニベロを降りたのは一度だけ、帰りがけに立ち寄った近所のコンビニだ。いつも装着していた携帯ミニポンプが無くなっていたのである。そういえばあの時、数人の若者が入口付近に屯していて、嫌な予感がしていたのを思い出した。

 翌朝、真一郎は昨日通った近場の道を注意深く見つめながらゆっくり走り、コンビニ周辺を念入りに探した。早朝なので、客は一人もいない。

 ヘルメット姿のまま店内に入り、馴染みの店員に問い合わせる。

「昨日の夕方6時から6時半頃、ここで買い物したのですが、自転車用のポンプがここで無くなった可能性が高いのです。防犯カメラの映像を見せて頂けないでしょうか」

「カメラの管理は店長がやっています。今は居ないので、後で訊いてみます」

「一緒に見られますか?」

「それは無理でしょう」

「そうですか……自転車のフレームに取り付けていた小さな携帯ポンプです。それがここで消えたかどうかを確認して頂ければ有り難い」


 数日後、真一郎は確認の為、やはりヘルメット姿のまま再訪した。件の店員や店長も居た。

「自転車は、ありましたよ」と、店員が答えた。

「………」

「その時間、自転車は確かに映っていました。無くなっていませんよ」と、店長が念を押して請け合った。

「………」

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