第7話 湯沸かし
その日僕はワクワクして待っていた。彼女が部屋にやって来る。年上だけど、二月も付き合っていないけど、少しいかした黒髪の、そう、長い黒髪のすらっとした笑窪が可愛い大学生。中学しか出ていない僕にとっては憧れだ。トイレしかない狭いアパートだけど昨日目一杯時間をかけて掃除した。少ない食器も全て取り出し洗い直した。お箸やスプーンも、この間の日曜日わざわざ遠いデパートへ行ってお揃いのものを買い足した。結構高かったので渋々それだけで引き上げたが、だから尚更入念に洗った。彼女も一人暮らしだけど、親に買って貰ったマンションに住んでいる。結婚した後は親が貸すと言っていた。贅沢だなと僕は思う。そういう話題から次第に進み、「夕飯、作ってあげようか?」と言ってくれた。その機会を逃すまいと僕は即座に身を乗り出し、「是非に是非に…」と応えた。
「何がいいかなぁー、何が好き?」
「何でもいいよ」
「でも…」と彼女は言い淀み、「ほんとは、殆ど何も作ったことないの。ゴメンね。でもね…やっぱり、君のために何か作ってあげるわ」
材料は、彼女が持ってきてくれることになっていた。
ドアを叩く音がして、僕は待ってましたとドアを開けた。
彼女は入るなり「外は寒いわ」と言いながら、手提げ袋を小さな流しの側に置く。
「寒いから、先ずはお茶ね」と目配せし、そこにあったヤカンをいきなりガス台に置き火を付けた。
僕は慌てて火を止めた。
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