最終話 朋桐さんのいない昼休みに

 その出来事からそれほど間を置かず、朋桐さんは学校を長期に渡り欠席するようになり、結局学校に復帰することのないまま三学期の初めに転校してしまったのだった。理由の説明もなく、どこの学校に転校したのかすら分からないまま。



 朋桐さんのいない昼休みの教室で僕は一人読書をしながら物思いに耽る。

 あの時、ひょっとしたら朋桐さんは僕に何かを伝えたかったのだろうか。自分のことを、周りのことを、自分の抱えている問題を。そして、受け止めて欲しかったのだろうか、自分のありのままを。なんの打算も無く朋桐さんのことを受け入れていた僕に。

 僕は思う。仮にその想像が正しかったとして、僕は彼女のことを受け入れて、彼女の望むように振る舞うことが出来たのかと。



 僕の答えは、否、だ。



 僕は彼女が思っているほどに強くない。人付き合いも上手くない。何より僕は女性を、異性のことを知らなさ過ぎる。彼女が居なくなって初めてその事に気がついたくらいなのだ。そんな僕に、彼女のすべてを受け止めることなど到底不可能だったに違いない。

 朋桐さんもおそらくはそれを分かっていたのだろう。でも、頭で理解していても、それでも僕に頼らざるを得ないほどに追い詰められてもいたのかも知れない。それがあの日の出来事だったのだ。



 でも、朋桐さんからその真実を聞く機会は失われた。どこに転校したのかなど担任に話を聞いても教えてはくれないし、一度学校から離れた以上同窓会などで会う機会もない。奇跡でも起きない限り、朋桐さんに会うことは叶わないのである。



 だから、僕は今日も一人、昼休みの教室で本を読み続けた。もうそこにはいない、彼女のことを思いながら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朋桐さんと僕の空間 緋那真意 @firry

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ