第6話 朋桐さんとカーテン越しの僕(下)

 勿論僕はそれで納得した訳ではなかったが、ここで押し問答をしている時間が惜しかったのと「どうかここに居て欲しい」と言わんばかりの朋桐さんの態度に気圧されるものを感じて、とにかくカーテンに包まるようにして姿を隠して待つ。

 カーテンに包まって待っている間の事は、実は良く覚えていない。色々な煩悩や雑念が頭をよぎっていたのではあるけれど、とにかくこんな所を他の誰かに見られて問題になりやしないのか、とそれだけが心配であった。そんなに時間はかかっていないはずだけど、僕にはいやに長い時間が過ぎたように感じられる。

 朋桐さんから「もう大丈夫だよ」という声がかかり、カーテンの中から出るとそこには体操着姿の朋桐さんが立っていた。

 朋桐さんはまず「ありがとう」と言ったあと、「無理言ってごめんね。でも今日だけはどうしても一緒にいてほしかったの」と言って頭を下げてから、僕が着替えやすいようにと教室を出ていく。僕は感慨にふける間もなく時間に追われるまま、急いで体操着に着替えると朋桐さんの後を追った。



 今もって、この時の朋桐さんの行動の真意が僕にはよく分からない。「どうしても居てほしかった」というからには恐らく一人で着替えることに何らかの問題があったのだろう。そして、それを男子である僕にわざわざ頼んできたことから考えて、女子の間で何らかのトラブルがあったのかも知れない。でも、それらは全て推測でしかない。本当のことは朋桐さんしか知らず、そしてそれを本人に尋ねる機会は遂に訪れなかった。

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