第5話 朋桐さんとカーテン越しの僕(上)

 たったひとつだけ、僕と朋桐さんの間に起きた大変な出来事がある。



 その日、いつものように僕と朋桐さんは昼休みに教室にいた。その日の朋桐さんは絵も描かずいつになく饒舌で、最近の漫画や音楽のことなどについて僕に話しかけてきて、僕もわかる範囲で話に応じ、分からないところについては素直に教えてもらう。

 世間話というのはあれで結構時間を食うもので、あれこれ話しているうちに気がついたら昼休みの終わりまで残り10分くらいになっていた。昼休み明けの授業は体育で、つまり休み時間中に体操着に着替えないといけない。

 僕はいち早く時間に気付き、朋桐さんに着替えをしないとと促す。すると、朋桐さんは何故か女子更衣室ではなくここで着替えると言い出した。



 勿論、教室は皆のものであるから教室で女子が着替えてはいけないという規則はない。しかし、一般的にいつ誰が入ってくるか分かったものではない昼休みの教室で女子が着替えるというのはあまり聞かない話である。まして、そこには男子である僕もいた。

 そこで僕は朋桐さんを気遣って体操着を持って男子更衣室へ移動しようとする。僕は男だから着替えに時間も取らないし、何より女子が着替えようとしている教室にいつまでもいる訳にもいかない。

 しかし、何故かその僕を朋桐さんは引き止めた。朋桐さんの言うところによると、どうせそんなに着替えに時間は取らないから、自分が着替えるまでカーテンの陰にでも居て待っていてくれればいい。そうしたら移動する手間もなく終わる、と言うことだった。


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