第4話 朋桐さんと僕の心地良い距離感

 そんなある日のこと。


 昼食が終わって昼休みになると、クラスメイトたちは思い思いの場所で遊んだり、あるいはおしゃべりをしに行ったりして教室から離れていき、教室には僕と朋桐さんの二人だけが残っていた。

 もっともこの頃になると僕と朋桐さんが教室に残って、それぞれ勝手に過ごすというのはクラスメイトにも知れ渡っていて、特に冷やかしの対象にもならずに放置扱いである。そして、僕と朋桐さんもそんな周囲のことなど気にも掛けずに、お互いの趣味に没頭するのが当たり前であった。



 ただ、何事にも例外というものは付き物である。この日もそうだった。

 その日の朋桐さんはイマイチ筆の進み具合が良くないようで、普段はあまり使っていない消しゴムを使って修正をしているのが、直接それを見ずとも感じ取れる。僕は本を読みながら朋桐さんが集中出来ていないのかな、とうっすら考えていた。



 しばらく経って、朋桐さんは持っていたノートと鉛筆を置くと、僕のいる席へと歩いてくる。僕の席は窓際で、廊下側の朋桐さんとはちょうど反対側だ。

 朋桐さんが僕に頼み事か何かがあってきたのはほぼ確実であったが、僕はあえて無関心を装って本を読み続ける。



 朋桐さんの頼み事は単純明快だった。今日は筆の進みが良くないので、気分転換に僕の横顔を描きたいのだという。

 僕は最初断った。僕みたいな顔中ニキビだらけの不細工な男の顔なんか描いても面白くないだろう、と思ったからである。それに朋桐さんはいわゆる少女漫画的な絵を描くことが多く、僕みたいな奴のことなんて上手くかけないに違いないとも思ったりもした。

 しかし、朋桐さんは絶対にがっかりはさせない、ちゃんと見られる絵を描くから、と強く頼み込んでくる。僕はその熱意に折れて絵を描いてもらうことになった。



 絵が仕上がるのには翌日までかかり、結論から先にいえば出来た絵は決して悪い出来では無く、僕視点でいえば少々格好良すぎるくらいだったがおおむね納得する仕上がりで、僕がその感想を伝えると、朋桐さんは「描いたかいがあったね」と嬉しそうに笑っていたのを良く覚えている。

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