作者の方の構成力が遺憾なく発揮された佳品

 冒険パーティーの「荷物持ち」をしていた奴隷・デックの手記という体裁で、ファンタジーの骨組みを生かしつつ、かなり悪辣な人間関係を深いところまで書いています。

 描写のディティールも鮮やかです。とくにドラゴンの「餌」のくだりは、あっさりと描かれているだけにすばらしく不気味で、作品世界の生と死の不条理をありありと感じさせるものでした。
 奴隷から「執事」となったデックが同じ奴隷へと向ける視線と、それに対するデック自身の自省的な述懐も、作者の方の目配りのよさを感じさせます。

 サーガもの、あるいはピカレスクロマンの構成を換骨奪胎している印象で、必然的に登場人物が多い・ストーリーの本筋が見えづらい点は出てきますが、そこが引っかからなければとても楽しめる作品だと思います。
 というかむしろこの作品に関しては、「手記」という体裁で書かれている――未来のある一点から過去をふりかえるという構成になっている――ので、一本筋なストーリーを追うよりも、徐々にパーツが組み上がっていく感覚を楽しむほうがいいかもしれません。
 これからもじっくり読み進めていきたいです。