金木犀を追って

作者 藍染乃 流

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★★★ Excellent!!!

一読してまず、モチーフの多彩さに驚かされます。
単純にいえば語句の幅広さ、ということになりますが、〈お茶の水博士〉(「猿」)から〈ばねのぱんだ〉(「Na」)、あるいは〈二日酔い〉みたいに青ざめた〈梢〉(「雨を待つ森」)から〈鳶の赭い翼〉(「ナンセンスだろスプリング」)まで、対象を汲み取り書き取っていく筆致がとても鮮やかで、それだけで惹かれるところがあります。

要するに文章の質が高いということで、この点では「風景メモ:北の稲妻」と題された作品が、わかりやすい証左となっているかなと思います。
おそらくどこにでもある堤防近くの風景の素描……というコンセプトである文章群が、すでに固有の「文体」を獲得している様には瞠目せざるをえません。

そしてもうひとつ、事物への認識の明晰さ。
何気ない静物の描出、その沈黙を描き取ることが、認識じたいの「コペルニクス的転回」を導く瞬間が、いくつもの作品で的確にすくい取られている印象です。
たとえば「罪の道」という作品において、死の象徴として立ち現われた〈鴉〉は、〈赤い内腑〉をあらわにする〈狸〉の存在によって、害意あるいは「罪」としての徴を与えられます。そして結末部に挿入された飛翔のイメージによって、それそのものが忽然と、〈旅路〉として捉えられるのです。
「罪」を負って飛ぶその姿に、つたない言葉を使えば私たちの生が託されていることはいうまでもありません。
緻密な観察こそがまことの他者との出会いとなる、そのお手本を見せられるような心地です。

当たり前のことですが、他者との出会いとは必ずしも甘美な体験ではなく、むしろそれが厳然たる、他者とのすれ違いとなることもあるでしょう。
同じ場所にありながら異なる何者かである誰かとの対峙、緊張、憂愁が最も鮮烈に描写されているのは、「同舟」という作品かもしれません。「舟の上」に在りながら「背中合わせ」に「過去ばか… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

私にとっての怖い詩集です。きっとあなたにも、この意味が肌感覚として感じられるはずです。
衣服を剥がれて裸になるだけでなく、皮膚を削がれて心を支える筋肉や、矜持を支える骨格までも晒される。
生温い現実に生きる私には、その実態を突き付けられるたびに、悲鳴を上げる心に鳥肌の立つ引き攣った顔から逃げられません。
どうですか、怖いもの見たさで興味が湧きましたか?
この恐怖の岩山を越えないと凪の海には出られませんよ。平和と安寧を見たいならば一緒に岩壁を上りませんか?
私の細い糸のような心は、あなたのような強い方との道行きを望んでいます。ぜひ一緒に歩いてくださいませんか!

★★★ Excellent!!!

レビュー時、四十編まで更新されています。

遊び心があるかと思えば、強く胸打つ意志を感じて、煙った不安を見たかと思えば、流れる水の心地を聞く……。
それらを揺るぎなく落ちつけているのは、筆者という幹に他なりません。いつかの色と香りのように、あなたを惹く詩が必ずあります。

★★★ Excellent!!!

鴎の街などでは文字の並びも利用して視覚的な実験作も描かれていますが、根幹にある言葉がしっかりとされているので奇を衒った印象はありません。読み上げていくうちにさまざまなイメージが鮮烈に読み手に食い込んできます。読み応えのある詩が溢れています。一読ではもったいない。