「九人目」の荷物持ちの手記
小林素顔
序文に代えて
序文に代えて
私はこの手記を、八英雄──この世界を魔族から救済し、その後の世界の指導者となった彼ら──への告発として発表するわけではないことをあらかじめ明示しておきます。
私がこの手記を発表できるような目撃者たり得たのは、その当時の冒険者パーティの奴隷としてはかなり待遇が良かったからに他なりません。荷物を運ぶためとはいえ、宿屋に上がって寝室に入ったり、馭者として馬車の手綱を任されたり、酒場で同席を許されたり。無論奴隷として手酷く扱われていた事実は変わりありませんが、未だにロバのように使われて燃え殻のように捨てられる奴隷が多いなか、破格の待遇だったと言えましょう。
しかし、そういう待遇の中で垣間見た八英雄の生活は、とても美化できるものではありませんでした。とくに、彼らが本来の持ち主に返すべき盗賊の盗品を闇で売りさばいていたことは、たとえその後の彼らの出世と、彼らがこの世界の救済する立場になることに必要なものだったとはいえ、弁護できるものではありません。
また、よくあるこの手の英雄譚では、「喧嘩するほど仲がいい」とでも言いたげに、言い合いやいさかいを喜劇のように描いたりして見せますが、私が見る限り、八英雄たちは本当にいがみ合っているように見えました。ただ、お互いの利害と目標のために、ある程度の衝突はやむなしとしていたのだと思います。
なお、私がこの手記の中で彼らを敬称略で呼ぶことをご容赦ください。彼らを侮蔑しているわけではなく、私が奴隷の立場から解放され、同じ人間として彼らについて書くことができる世界を作ろうとする姿勢の一種だとお考え下さい。
昇竜王となったエンリケ、王国の財務卿となったリンファ、同じく魔導卿となったジョゼ、騎士団長となったエレラ、修道会の最高位に就いたフリオ、新しく教団を起こしたネフィ、新しく国を打ち立てたグロッソ、そして抹殺されようとしているユーキリス――彼ら八英雄にこの手記は捧げられます。
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