安定した筆致と大胆な構成

正直なところ、あんまり異世界系という感じはしないのですが、とにかく安定した、静的な筆致で読ませる作品です。

ベタなところで言えば、それこそ『ファウスト』や『神曲』を連想させる構造とモチーフが見え隠れしますが、観察されるべきところを的確に観察した、取捨選択の巧みな文章が難解さを感じさせません。

個人的に最も良いなと感じたのは、登場人物の命が絶たれる場面の描写です。あまりに淡々と書かれるので、作者の方としてはもしかすると、さほど重要なシークエンスと見なしていないかもしれないのですが(なのでレビューで取り上げるのが妥当か分からないのですが)、それにしても奇妙なほど心に残ります。命を絶たれることで人間が「物」になる、その瀬戸際をギリギリで描き出しているように思いました。