同窓会の二次会で初恋の相手と二人っきりになった。

「ここ、いいかな?」

 同窓会の二次会で、私は初恋の相手――高宮君と二人っきりになった。

 私が落ち着かない気持ちを押し殺して「どうぞ」と言うと、彼は居酒屋の半個室に身を滑らせてきた。

 少し雑談をした後、彼は爆弾を投下してきた。

「俺、ずっと柏原のこと好きだったんだ」

 一気に酔いが醒めた。柏原というのは私のことだ。

 高宮君は当時、私の友人と付き合っていた。その友人には私の初恋を打ち明けたことがあったから、裏切られたように感じたものだ。

『ごめんね。私も好きだったから』

 そう言われてしまい、私は『おめでとう』と言うしかなかった。

「――じゃあ、私が先に告白してたら、付き合っていたかもね」

 私が無理に笑ってそう言うと、彼も苦笑した。

「今更だよね」

「ほんとよ」

 彼と友人は、高校を卒業する頃には別れていたそうだ。

 私たちは別々の大学に行き、それからもう十年以上が経っている。

「アドレス聞いてもいい?」

 高宮君と私はメッセージアプリのアドレスを交換し合った。

 その後、彼から何度か連絡が来た。その度に少しだけ昔の気持ちを思い出しつつ、当たり障りのない返事を返した。

 同窓会で会った例の友人は、私たちの知らない誰かと結婚して、その夫の事業を手伝っているらしい。派手ではなかったが、高級なアクセサリーを身に着けていた。


「同窓会はどうだった?」

「楽しかったわよ」

 夫にそう返して、寝室に向かう。

 子どもはもう眠っていた。


 もし、あの時に戻れるとしたら、私はどうするだろうか。

 友人に先んじて彼に告白し、恋を勝ち取るだろうか。

 そうしたら、今の夫と子どもには会えないかもしれない。

 彼と付き合えれば、一時は幸せになれるだろう。でも、それがいつまで続くかはわからない。

 とりとめもない思考の渦の中で、私は眠りに落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る