娘を訪ねて二十年

「娘さんに会いたい?」


 男にしては線の細い青年探偵の問いに、年嵩としかさの男は是と頷く。

 いわく、二十年前に生き別れになった娘を探しているという。


 探偵は鋭い目つきで男をにらむ。


「頭金で百万、調査期間中は日当で三万円頂きます。よろしいですか?」

「構わない。どうしても会いたいんだ」


 男の返答に迷いはなかった。


「……そもそも、どうして今更会いたいと?」

「当時の俺は馬鹿だった。自分のことしか考えちゃいなかった。……最近になってやっと家族のありがたみってやつを感じるようになったんだ。遠くから一目見れるだけでも構わないんだ。頼む」

「手がかりは、亡くなった母親の名前と当時の住所だけですか。……まあ、やるだけやってみましょう」


 一ヶ月後。

 探偵は男をある大学のキャンパスに呼び出した。


「あれがあなたの娘さんです」

「あの子が……」

「そこまでです。あまり見ていると不審に思われますよ」

「あ、あぁ。すまない」


 大学構内のカフェテリアにて。

 彼の娘と見られる女学生は、友人らと楽しそうに談笑していた。


 キャンパスを出た後、探偵と男は最寄りの駅に向かった。


「ありがとう。もう満足だ」

「直接話さなくても良いんですか?」

「ああ、元気にやっていることがわかっただけで十分だ」


 男がそう答えると、探偵は深々と溜め息をいた。


「調査費用は前と同じ口座に振り込んでおくよ」

「――合格」

「え?」


 探偵の突然の合格宣言に、男は虚を突かれた。


「合格ですよ。……はあ、もっとクズ野郎だと思ってたのにな」

「……なんだと?」


 探偵がいきなり暴言を吐くので、男は耳を疑った。

 すると、探偵が男に背中を向け、ずっとかぶっていた帽子を脱いだ。

 探偵が再び振り返ると、男の前にはロングヘアーの美女が現れていた。


「さっきの女性は赤の他人です。本物は私。成功報酬として、これまでの養育費を請求しても良いかな、お父さん?」

「ろ、ローンでお願いします……」


 青年探偵にふんしていた実の娘の要求を受けて、男は力なくうなだれた。

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