概要
昭和30年代。小学校時代の忘れられない思い出。
古希を迎えるわたしは、孫が落とした消しゴムで遠い日の記憶が蘇った。
木造校舎と、卵焼きのにおい。
木造校舎と、卵焼きのにおい。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★ Very Good!!お弁当に入っていた卵焼きの思い出。
語り手の「私」は、孫が「あ、おじいちゃん、消しごむ取って」と言った何気ない一言から、小学生だったときのことを思い出します。「私」の子ども時代は、戦争が終わった1950年代。そのころの日本が貧しかったことは、きっと想像に難くないでしょう。
その日は給食がなかったので、「私」は母に作ってもらったお弁当を持参します。お昼になり、教室の机で食べていると、女の子がそのそばを通ります。ただそれだけなら良かったのですが、彼女は「私」の机に置いてあった消しゴムを不意に掴み、落とすのです。
「私」はそれに対し、苛立ちのようなものを覚えますが、その瞬間自分のお弁当から卵焼きがなくなっていることに気づくので…続きを読む - ★★★ Excellent!!!いまどきの昭和生まれは知らない昭和の風景
消しゴムと卵焼きにまつわる、子供の頃の思い出のお話。
どこか郷愁を誘う昭和の風景。なかなか珍しい題材なのはいうまでもなく、人物の設定(あるいは書かれ方?)に際立ったものを感じます。
ただ古い時代を書くのみでなく、それを小学校の頃の思い出として、年老いた『私』の回想として描写する。一般的に、物語の主人公としてはどうしても青年期や壮年期の人物が多くなる中、この年齢設定だけでもう目を引くというか、なんだかとても新鮮でした。
主題というか、物語を通じて書かれているものそれ自体が好きです。細かな心の有り様、ひとことでは言い表せない感情の動きのような。作中の出来事それ自体は決して大仰な事件ではなく、でも…続きを読む