いまどきの昭和生まれは知らない昭和の風景

消しゴムと卵焼きにまつわる、子供の頃の思い出のお話。
どこか郷愁を誘う昭和の風景。なかなか珍しい題材なのはいうまでもなく、人物の設定(あるいは書かれ方?)に際立ったものを感じます。
ただ古い時代を書くのみでなく、それを小学校の頃の思い出として、年老いた『私』の回想として描写する。一般的に、物語の主人公としてはどうしても青年期や壮年期の人物が多くなる中、この年齢設定だけでもう目を引くというか、なんだかとても新鮮でした。
主題というか、物語を通じて書かれているものそれ自体が好きです。細かな心の有り様、ひとことでは言い表せない感情の動きのような。作中の出来事それ自体は決して大仰な事件ではなく、でもだからこそ伝わる微妙な心境の揺らぎ。些細だけれど大きな出来事。そして最後の、その感情の着地点。
大きな時間の隔たりを繋ぐ、綺麗な流れのようなものを感じさせてくれるお話でした。