ユダヤ人の大虐殺がひとりひとりに問いかけられています。
いったいどうやってアウシュヴィッツ収容所から生き延びたのか。当時のことを語り伝えてはどうかと問われた主人公は「何も無い」と拒否する。アウシュヴィッツで何がおこなわれ、ユダヤ人がどう死んだのかを思い返す主人公。追想はやがて、主人公の秘密へと辿り着く。読後に訪れるなんとも言えない空白に、思わず唸った。短いストーリーのなかに、主人公が収容所をどう捉え、世間をどう捉え、自分自身をどう捉えているのかが詰まっている。その是非はともかく、良作だと思う。