ずっとそばにいて欲しかった

花岡 柊

ずっとそばにいて欲しかった

 秋の気配など微塵も感じられない九月の終わり。ここは、変わらずの景色を保ちつつも、気温や人の移り変わりは否めない。高く聳え立つ自身の体は、もうずいぶんと老いてしまい、あちこちガタがきていた。病気にならないよう気を付けてくれている神主の三上さんが、どれほど私のことを大切にしてくれているのかよく解ってはいても。時間という長い歴史を越えてきた体は、若者のようにはいかない。この先は、春を越えて青々とした緑を芽吹かせる周囲の草花に、羨む心よりも、見守り大切にしたいという思いで寄り添っていきたい。

 ここへやってくる人間のうちの一人。そう、彼女のことも。私は、ずっとずっと見守り続けていきたいのだ。


「なんでよ……。悔しい。私バカみたいじゃんっ!」

 誰にともなく叫んで涙を流しても、ここに人の気配などない。大通りから外れた小さな道に、三十段ほどの石段。そこを上っていくと、寂れた赤い色の鳥居が見えてくる。

 ずっと昔。どれくらいだろう。母と父が生まれて間もない私にお包みを着せ、写真を撮ったこの神社は、気がついた時には身近な場所になっていた。共働きの両親に構ってもらえず寂しい思いをしている私を、祖母がこの神社へとよく連れてきてくれていた。神主さん。(確か三上さんといっただろうか)の社務所は、少しばかり離れた場所にあるから気兼ねなくいられて、私は幼い頃からこの場所が大好きだった。

 時折通る車の音が聞こえては来ても、ここはとても静かな場所だ。風に揺れる木々の音と、囀る鳥の鳴き声。時に強く吹く風が音を立てることはあるけれど、この場所は護られている。

「見てごらん、紗耶香。とても大きな木だろう」

 祖母は、大人二人が手を繋いで広げたとしても、囲いきれないほどに太い幹を持つ木に優しく触れ、語り掛けるようにしながら小学五年生になったばかりの私に話して聞かせてくれた。

「ご神木様だよ」

「ごしんぼくさま?」

「そう。ここに住む私たちの生活を、ずっとずっと見守り続けてきてくれた、神様の木だ」

「神様の木」

 祖母は穏やかに頷くと、いつもありがとうございます。と言って優しくその木を撫でるのだ。私は祖母のその仕種が好きで、今受け継ぐように木を撫でる。

「ねぇ。私フラれちゃったよ。知ってるでしょ。高校の時から付き合ってた彼。好きな子ができたって」

 グズグズと鼻を鳴らし、ご神木様の根元に座り込む。頭をそっともたせ掛け、木の呼吸を感じる。

 この木は生きている。ずっとずっと長い時間を生きてきている。今まで何十人何百人の話をこの木は聞いてきたことだろう。きっと計り知れないほどの辛い悩みを、この大きな体で黙って受け止めてきたに違いない。たかだか男にフラれたくらいで、この世の終わりみたいに泣きじゃくる私の話など、呆れた気持ちで聞いているかもしれないな。

「でも、辛いんだよ。だって、まだ好きなんだもん。こんなに急にフラれちゃったら、心の準備なんて、少しもできてないんだもん」

 誰もいないのをいいことに、大学生にもなって子供みたいな口ぶりで泣き言を言っていた。

「ご神木様も、こんなこと聞かされて呆れてるよね」

 そうは言っても、私が思い切り泣けるのはこの場所だけだ。共働きの両親はいつも忙しくしているから、高校になり祖母が亡くなってしまってからは家に一人でいることが多い。だから、一人きりの家で泣いて叫べばいいのだろうけれど。どうしてかな。ここにきて話をすると、心の中にある黒いものが少しずつ消えていく気がする。神様の木だから、私のどうしようもない感傷的な気持ちを浄化してくれているのかもしれない。

「いつも情けなくて、ごめんね」

 祖母がしていたように、再びご神木様にそっと触れて撫でる。

「生きている」

 ほっと息を漏らし、確認するようにして呟いたあと手を離す。

「また愚痴りに来るね」

 苦笑いを残して立ち去ると、秋の香りをほんの少しだけさせた風が私の髪の毛を躍らせた。


 知らない女に寝取られ彼氏にフラれようが、泣きはらして瞼がいいように腫れ上がろうが、日常は当たり前のようにやってくる。腫れた目のまま講義に出席するのも嫌で伊達メガネをかけてきたのだけれど、余計に目立ってしまっていた。

「何、その眼鏡。似合うじゃん」

 普段かけもしない眼鏡にすぐさま反応を示したのは、ゼミが一緒の幸恵だ。何かあったのかとワクワクした顔を向けられたけれど、楽しい話題など今の私には皆無だ。

「この件に関して触れないで……」

 隣に座った幸恵にどんよりとして返せば、瞼の腫れに気がついて口籠る。それでも、彼氏と喧嘩でもした? なんて訊かれて、生傷になったばかりの部分が痛すぎてぽろぽろ涙が止まらない。慌てた幸恵に泣きついてみたけれど、すぐに講義が始まってしまい、愚痴も涙も中途半端に中断されてしまった。

 加え、講義が終わると、今日はこの授業だけですぐにアルバイトの時間だからと、幸恵は慌てたように授業道具をバッグにしまっている。

「今度、ゆっくり聞くからね」

 申し訳程度にそう言って、幸恵はさっさと教室を出て行ってしまった。

「薄情者~」

 恨めしい声と顔を向けてみたところで、急いでいる彼女に届くはずもなく。結局私は、今日もこの神社にやってきた。

「どうして浮気なんてできるんだろ。誠実さの欠片もないじゃん。こっちはさ、ひたすら連絡を待ってさ、邪魔にならない程度にLINEしてさ。結構気を遣ってきたのに。その仕打ちがこれだよ。信じられないっ」

 いつものようにご神木様に寄りかかるように座り、浮気相手に彼を取られてしまった悲しみや愚痴を延々と話し涙を流していた。しばらくそうしていると、サクサクッと枯葉を踏む音が境内の方角から聞こえてきて驚いた。

 人がいた!?

 泣き言を盛大に漏らしていたことに羞恥心が湧き上がり、ぱっと立ち上がり直立不動になる。それから、音のする方を窺うようにして見た。

「こんにちは」

 枯葉を踏み鳴らして現れたのは、多分同じくらいの年齢だろう男性だった。

「こ、こんにちは」

 屈託なく笑顔で話しかけられて、条件反射のように挨拶を返した。そのすぐ後には、初対面の相手に大きな独り言を聞かれてしまったんじゃないかと、焦りに攻撃的な口調になってしまう。

「な、なにしてるんですかっ」

 何をしていようがその人の勝手ではあるのに、ここに人が来ることなどお正月くらいのものだから、あまりに驚き過ぎて責めるように言ってしまった。

「えーっと。散歩です」

 私の言い方がきつかったのは明らかで、現れた男性はちょっと引き気味だ。自分で勝手に愚痴っていたというのに、それを聞かれてしまったかもしれないからって、他人にきつく当たるなんてどうしようもない。

 現れた男性は、なんとも穏やかな表情をしていて。散歩という言動が似合い過ぎるほどだ。なんというか、第一印象の同じ年齢という枠を超えて、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「ここ、落ち着くし、いいですよね。あ、僕、楠木くすのきと言います」

 すんなりと名乗られて、それはどうもという具合に小さく頭を下げる。屈託なく話し掛けてくる声質はソフトで、この声で絵本を読まれたら子供は幸せだろうな、などと思った。

 そんな楠木さんの雰囲気に、さっきまでいきり立ち、大きな独り言を聞かれて羞恥に穴があったら入りたいという思いに駆られていた感情は、スーッと鳴りを潜めた。まるでこの楠木さんという男性の持つ穏やかな雰囲気が、私にも伝播してきたみたいに、懐かしいような、親しみのある雰囲気が心を解きほぐしていった。

「N大に通うために、四月にこの町に越してきたんです」

 彼は訊かれてもいないのに、近所の知人にでも会ったような口ぶりで話す。

 N大は、私と同じ大学だ。もしかしたら、どこかですれ違ったりしていただろうか。四月に越してきたということは、やはり私と同じ年齢ということだ。学部はどこだろう。見かけたことがないということは、理系だろうか。理系の校舎は、私のいる文学部のある校舎から離れた場所に建っている。

「私もN大ですよ」

 何か情報を聞き出したいという思いもあってそう口にしたのだけれど、そうですか。というように、楠木さんは穏やかに微笑むだけだ。その表情を見てしまえば、大学で何を専攻していようが、そんなことはどうでもいいように思えた。

「ここ、私のお気に入りの場所なんです。ここに来ると、気持ちの整理もできるし、心がぐちゃぐちゃに波立っていても、少しずつ穏やかになるんです」

「どうしてですか?」

 不思議そうに訊ねる顔に向かって、すぐそばに聳え立つご神木様に触れる。

「ご神木様です。私が赤ちゃんの頃よりも、もっとずっとずっと昔からここに生きて、私たちを見守ってくれている木です。このご神木様に会いに来ると、癒されるんです」

 愛しむように触れながら話して、咄嗟に何を言っているんだ。とうっとりしながら話す自分に引かれていやしないか彼の表情を窺った。彼の瞳は、優しく優しく垂れさがっていた。楠木さんは、こういう話を馬鹿にしたりからかったりするようなタイプではないのだろうと、その表情にほっとする。

「何かあると、私はいつもここでご神木様に話を聞いてもらっているんです」

 と言っても、愚痴ばかりだけれど……。

「そうですか。じゃあ、僕もいろいろと聞いてもらおうかな」

「悩みを話すと、スッキリしますよ。残念ながら、答えは返ってきませんけどね」

 語尾に笑いを付けると彼も笑う。

「そうだ。いい答えが返せるかどうかわかりませんが、よかったら僕もお話を聞きましょうか?」

 そう言って、彼は自然と境内の方へ足を向けた。それに倣うように私もあとをついていき、二人で境内の階段に腰かける。拳三つほど空けて座った距離は、名前しか知らない彼への警戒心だ。

 そんな風に離れて座っても、今朝幸恵に愚痴れなかったというのもあり、誰かに話したいという思いはあった。普段なら見ず知らずの初対面の男性相手に失恋話を愚痴るなんて、考えられない。考えられないはずなのに、……どうしてだろう。話してごらん。そう言うように瞳をのぞき込まれると、初対面だとか、失恋話は恥ずかしいだとか。そんなことは全て些末に思えて、私の口はスルスルと悲しく悔しい感情を彼に吐露していた。

「辛い思いをしましたね」

 話ながらグズグズと涙を流すとハンカチを貸してくれて、子供みたいに泣きじゃくる私の背を優しく撫で、何度も何度も、大丈夫ですよ。と声をかけられた。そうやって、気がつけば夕刻を前にして、私の心は随分とスッキリしていた。

「ごめんなさい。こんなに泣いちゃって」

「気にすることはないです。泣くというのは、心にいいことなんですよ。辛いことをため込んでしまうと、心はどんどん重くなってしまう。重くなって、苦しくなって、身動きができなくなってしまう。助けて欲しいと思っても、その「助けて」が言えなくなってしまう。だからいいんです。いくらでも泣いていいんです。僕は、いつだってここで紗耶香さやかさんのお話を聞きますし、泣きたい時はその涙に付き合います」

 そう言った彼は、本当にとてもとても穏やかな表情で、私のことを見守るようにしている。

「優しいね。ありがとう」

「どういたしまして」

 ニコリと微笑まれれば、失恋して傷ついていたはずの心が、小さくやわらかな音を立てた。この音は何だろう。知っている音だけれど、久しぶり過ぎて巧く消化できない。だって、私はまだ元彼のことを諦められないでいるはずだから。

「またお話しましょう。紗耶香さん」

「うん。ありがとう。またね」

「はい。また明日」

 空がオレンジ色になるころ、彼の言葉に背中を押されるようにして、神社をあとにした。

「あれ……。そういえば、私名前言ったっけ?」

 考えてみたけれど、楠木さんの微笑んだ表情を思い出せば、名乗ったのだろうと納得した。家までの道程は、ここへ来た時と雲泥の差で、足取りは軽やかになっていた。

 

「また、明日」そう言ったように、翌日も神社へ行くと、彼は鳥居を潜ったすぐ先で、空を見上げるようにしてまっすぐ立っていた。目を閉じて立つ姿は、風を感じ、鳥の声に耳を傾け、少しだけ黄色に染まり始めた葉の音を聞いてでもいるようだった。

「こんにちは」

 話しかけると、ゆっくりこちらを振り返り、優しく微笑む。

「こんにちは。今日は、少し暖かいですね」

 私が傍に行くと、楠木さんが空咳をした。

「風邪?」

「いえ。大丈夫です」

 十月初めだというのに、気温は下がらず。少し前から僅かに木の葉が色づくも、肌寒ささえ感じない陽気だ。それでも時々急に冷え込む日が来たりするものだから、体調を崩してもおかしくない。

 ここへ来る途中の自販機で、スポーツドリンクを二つ買っていた。一つは、彼にだ。この前話を聞いても貰ったお礼もあるけれど、きっとまたたくさん話をするだろうし、今の咳も少し気になった。

「これ飲んで」

「ありがとう」

 受けとった彼の手に、私の手が触れる。昨日の柔らかな音が、また聞こえた。

 生きている。

 どうしてそう感じたのかな。生きているなんて、目の前にいるのだから当たり前のことなのに、噛みしめるように確認するようにそう思った。

 楠木さんは、とても聞き上手だった。私が支離滅裂で話す失恋話にも、匙を投げだすことなく耳を傾け。時々質問をし、そうして慰めてくれる。

 涙が滲んでくるとハンカチを差し出してくれるし、大丈夫だよ。紗耶香さんはとても素敵な女性なのだから、とまるで私のことを以前から知っているように褒めてくれた。それは普通なら、何も知らないくせにと一蹴してもいい言葉のはずなのに、私は彼にそう言われると自分に少しずつ自信を持つことができた。

「モテるでしょ?」

 からかうように言ったのは、自分の気持ちに少しばかりの浅ましさを感じたからのような気がした。彼にフラれて泣いているというのに、他の男性に興味を持ち始めていることに気がついている自分が、あさましい気がしたんだ。

「紗耶香さんの方がモテるでしょ」

 同じように、からかうようにして楠木さんが笑う。顔を見合わせて笑いながら、なんだかうまく誤魔化されてしまった気がしたけれど、今はそれでいい。一緒に居られるこの時間の方が、今の私には大事に思えたから。

「秋は、なかなかやって来ませんね」

 ペットボトルのスポーツドリンクを握りしめたまま飲むことなく、楠木さんが薄い青空を見上げた。夏の終わりに香っていた金木犀も、気がつけば花を散らしてしまっていたけれど。黄色く色づいた葉は、なかなか増えることがない。

「私ね。寒くなるのは嫌だけど、秋の食べ物は好き。栗に南瓜に茸でしょう。それから、秋刀魚にさつま芋」

 指折り食べ物を数え上げていると、楠木さんが笑う。

「紗耶香さんは、本当に食べることが好きですよね」

「えぇー、だって美味しいもの食べたら、幸せな気持ちになるでしょ」

「そうですね。じゃあ、僕からの提案。だいぶ元気になって来ていますが、栗パワーでもっと元気になってください」

「栗パワー? もしかして、モンブラン?」

「はい」

「モンブランは、大好物なんだよねぇ~」

 浮かれたように、はしゃいだ声を上げる。

 そうなんだ。私は、モンブランケーキが大好きなんだ。まるで私の好物を心得てでもいるみたいに、楠木さんが提案するからホント驚いた。

「楠木さんは、超能力者ですか。私の大好きなものを言い当てちゃうんだから、凄いです」

 キャラキャラと私が笑っていると、ほんのり吹いた風で髪の毛が少しばかり乱れて目元にかかった。それをとても自然に、楠木さんの指がそっと払い除けてくれる。

 近づいた顔と顔の距離に、視線を外せないまま見つめてしまう。楠木さんの指が私の髪の毛に触れ動くさまを感じながら、この瞬間が長く続けばいいのにと思えた。

 けれど、それは一瞬のことで。離れていく指先は、名残惜しい。

「あ、ありがと……」

 また、音がした。さっきよりも大きく鳴ったその音を抑え込むように、胸元に右手を持っていく。

 どうしよう、私……。

 自分の中に芽生えた想いに戸惑っていると、楠木さんがまた空咳をした。

「大丈夫?」

「平気です。すみません」

「それ、飲んだら?」

 渡した時から手に握りしめて、一向に飲もうとしないスポーツドリンクを目で指し示す。

「ありがとうございます。あとで頂きますね」

 今飲んだ方がいいんじゃないかと思っても、楠木さんのどうしてか頑なな瞳が、私の言葉を喉元で止めた。

 そうして今日も彼は、別れ際に言うんだ。

「紗耶香さん。また明日」

 笑顔とともに見送られることに、私の心は満たされていた。


 それから毎日のように、私と楠木さんはこの小さな神社で逢い、他愛もない話をした。と言っても、話すのはいつも私ばかりで、聞き上手の楠木さんは、どうしようもなくくだらない話でさえ、飽きた顔一つせず聞いてくれるのだ。

 以前スポーツドリンクを渡した時、結局彼は私の前で飲むことがなくて。もしかしたら、苦手なのかもしれないと思い。それからは、無難に水を買っていくことにしていた。楠木さんに水を差し出すと、嬉しそうにキャップを開けて喉を鳴らす。それを見てほっとした。

「お水は、美味しいですね」

 ふぅっと息を吐き、空を仰ぐ。私も倣って空を仰ぐ。

 楠木さんの仕種は、私の周囲にいるどの人とも違っていて。けれど、その違いをどう説明したらいいのか解らないのだけれど、見ているだけでほっとするというか、癒されるのだ。こんな人に出会ったことはないし、きっとこの先もないだろう。そう考えると、この縁がずっと続けばいいのにと思う。

 お祖母ちゃんは、人と人との縁は不思議で、とても大事なことだと話していたことがあった。どんな人と出会い、どんな人のそばにいるかで、自分の周りにある景色は、明るくも暗くもなると。楠木さんのそばにいると、私の景色はきっとずっと日の当たる明るい景色の中にいられる。そんな気がした。それが、どんな形であったとしても。

「紗耶香さん、手を貸してください」

 空を見上げていた楠木さんに言われ手を差し出すと、優しく握り万歳するように持ち上げられた。

「こうやって手を広げると、自然の空気が体の中に浸透してくるような気がしませんか」

 楠木さんは目を閉じ、私の手を握ったまま両手を上げている。私も同じように、もう片方の手も上げた。そうして、ここにある自然の力を吸収するようにゆっくりと深く呼吸を繰り返した。

 何度かそうした後、ふぅっと息を吐き。繋がっていた手が離れる。

「今日もいい陽気ですね」

 隣の私の目を見て笑う表情がたまらなくて、私は大きく頷いた。


 私たちは、晴れた日はご神木様の木の根元に座り込み。雨の日には境内の階段に腰かけ、飽きることなく話しをしていた。

 十月が過ぎた頃、天候はアップダウンの激しい様相を呈していた。とても晴れて、まるで夏日のような暑い日があるかと思えば。台風が発生して、雨風の強い荒れた日もあった。

 さすがに台風の日に会うことはなかったけれど、台風一過になれば意気揚々と私の足は神社へ向いた。「また明日」そう言ってくれる、楠木さんの言葉に惹かれるように私は神社へ足を向けるんだ。

「昨日は、大丈夫でしたか?」

 台風の心配をしてくれる楠木さんに、平気、平気と軽口を叩く。

 実際、直接日本に上陸していない台風だったから、風と雨が少しばかり強いくらいで被害と呼べるのは、家の前や庭に散乱した小枝やゴミを片付ける程度だった。

「楠木さんのところは平気だった?」

「はい。大丈夫です」

 ニコリと笑みを見せた後、空咳をする。

「そっちは、平気?」

 実は、以前から出ている咳が、少しずつではあるけれどひどくなっているように思えていた。

「病院、行った? お薬貰って飲んだ方がいいよ」

「ありがとうございます。紗耶香さんは優しいですね」

「そんなことは……、このくらいは普通だよ」

 楠木さんは、私の言動を何かと褒めてくれるものだから、つい嬉しくなりそれが表情に出てしまう。

「笑顔も素敵です」

「もう。ホント、褒め上手だよね」

 声を上げて笑うと、見守るような穏やかな表情を向けられて、私の中ではあの音が鳴ってしまうんだ。

 楠木さんとずっと一緒いられたら、どんなに幸せだろう。一緒に遊びに出かけるわけでも、食事をしに行くわけでもない。眠れない夜に長電話をするでもなく、メッセージのやり取りをするでもない。彼がスマホをいじっている姿を一度も見たことがないから、そういうものに固執していないのだろうし。どこかへ行きたいという話で盛り上がることもない。だけど、楠木さんとはそれでいいような気がしてしまうから不思議だ。

 私たちは必ずここで逢い、話をしている。約束なんかしなくても、必ず会えるという安心感があった。

 この関係をなんと呼べばいいのか。少しばかり悩んだこともあったけれど、もしも恋人同士という形に収まった時、いずれ迎えるのは別れだろう。それを考えると、私は怖くてたまらなかった。

 楠木さんのことを想うこの気持ちは、きっと恋だ。私はたまらなく彼を好きになっている。だからこそ、今以上の関係を望むことを躊躇ってしまう。元カレのように、楠木さんを失ってしまうことが怖いんだ。

 ただ一緒にいたい。このままずっと、変わらず一緒にいたい。

 他愛もない話をして、一緒に空を見上げて、ここの空気をめいっぱい吸って。大丈夫ですよ、素敵ですよ、という楠木さんの言葉を素直に受け入れて。そして、時々。そう、本当に時々。お水を渡す時に手が触れて。慰められるときに髪に触れられ。元気を出してくださいと背を撫でられ。境内に腰かけるときに置いた手に彼の手が触れて。たったそれだけのことが嬉しくて、子供みたいに喜んでいたい。

 だけど、変わらないものなんて、この世にはないんだ……。


「また、台風だって。こんなにいいお天気なのにね」

 私の言葉を聞きく楠木さんは、輝く太陽の光を浴びながら深呼吸をしている。私も倣って、ここの空気をめいっぱい吸い込む。車やバイクの排気ガスや、よく解らない食べ物の残飯臭や、作られた香水や強い柔軟剤の香り。そんなものとは無縁のここの空気は、ご神木様のおかげなのか、浄化されたように澄んでいる。

「一週間くらいしたら、日本に直撃みたいだよ」

 今朝観たニュースでは、大型の台風が日本を直撃すると言っていた。ニュースキャスターのわざとらしいほどに脅しをかけるような台風対策が、今までにないほどの猛威を振るってやってくる台風を否応なくイメージさせた。

「そうですか。くれぐれも、お気を付けくださいね」

「楠木さんもね。それから、咳。全然治らないじゃん。私が一緒に病院について行こうか?」

 あまりに長く続いている咳に、心配が募る。

「大丈夫ですよ」

 子供じゃないんだから、一緒になんて言われていくわけないか。でも、本当に心配なんだ。台風のことも心配だけれど、楠木さんの咳はちょっと長く続き過ぎている。咳は長引くとお祖母ちゃんが言っていたから、軽いものならいいけれど。そうじゃないなら、早めに診て貰わないと、大変なことになってしまう。

「自分の体を過信しないでね」

 別れ際、念を押すように病院へ行くことを勧めた。楠木さんは、いつもの笑顔を浮かべるだけだった。

 猛威を振るって日本に接近していた台風は、二日後には上陸するスピードを上げていた。一週間後と当初予想されていたのに、あと二日もすれば日本にやって来てしまうという。

 父と母は忙しさに台風対策どころじゃないなんて言っていたけど、そんなの命あっての物じゃない。両親に変わり、雨戸の点検や、庭にある飛んでいきそうなものを片付けていく。それから、水と食料の確保。停電になった時のためのバッテリーや紐を引くだけで点く懐中電灯も用意した。電気やガスがとまれば、暑さ寒さも自力でなんとかしなくちゃならない。あれもこれもと考え準備をし、台風に備えた。

 そうして、私の足は今日も神社へと向かう。ううん。違うな。あの日から私は、楠木さんに逢いに行っているんだ。

「準備は、バッチリだよ。そっちは?」

「僕のところはアパートですから、ちょっと心配なところもあります。でも、紗耶香さんの台風対策を見本に、僕も準備しますね」

 今日も空はまずまずの快晴だ。ちょっとばかり風が強いのは、台風が近づいてきているからだろう。見上げたところにあった雲の流れが、いつもよりずっと速い。

「何事もなく過ぎますように」

 空に向かって呟くと、楠木さんも目を瞑り、空を仰いだ。

 今日も、楠木さんの咳は止まらない。酷く咳き込むわけではないけれど、なんだか顔色も優れない気がする。

「本当に大丈夫? 具合悪いんじゃない?」

 私が毎日神社にやってくるのを解っているから、楠木さんも無理をしてここへきているんじゃないだろうか。

「少し会うの、控えた方がいいかな?」

 窺うようにして見ると、「平気ですよ」と笑みを浮かべる。その言葉にほっとしつつも、やはり心配なのは否めない。顔が青白く見えるのは、ご神木様の木陰にいるからだけじゃないだろう。思わず、楠木さんの頬へと手が伸びてしまった。

「冷たい……」

 体温を奪われたように、体が冷えている。

「ねぇ。ちゃんと病院へ行って。こんなんじゃ、倒れちゃうよ」

 楠木さんがいなくなってしまう。どうしてそう思ったのか解らないけれど、私の心は急激な焦りと不安に見舞われて、心臓がドクドクと大きな音を立てだした。

「病院に行ってる? お薬、ちゃんと飲んでる?」

 矢継ぎ早に問いただす私に、少しだけ困ったように眉根を下げた表情を見て、おせっかいが過ぎただろうかと口を閉ざした。私は楠木さんの親族でもなければ、まして彼女でもない。ここで逢って話をするだけの、連絡先さえ知らない仲だ。そんな相手に色々とせっつかれてしまっては、いい気はしないだろう。

「ごめん……。心配し過ぎだよね……」

 自虐的な笑みを貼り付けたところで、楠木さんの腕がふわりと私を包み込んだ。

「ありがとうございます」

 耳元で言われたのは、そのたった一言なのに。彼から伝わる体温が、ちゃんと生きていると私を安心させる。私に触れて、私のことを褒めて、私の笑顔が好きだと言ってくれる彼の、温かな体温。

 どうしよう、涙があふれてきちゃった。嬉しいのか、悲しいのか。安心しているのか、寂しいのか。色んな感情が心の中をめぐって、涙腺に影響している。

 抱きしめられて嬉しいはずなのに、どうして泣けてしまうんだろう。どうしてこんなに、不安な気持ちになるんだろう。

 お願い、このまま放さないで。ずっとこのまま抱き締めていて。離れたくない。今楠木さんから離れてしまったらいけない気がする。なのに。

「今日は、もう帰りますね。家で大人しくしています」

 ゆっくりと彼の体温が離れていく。私の両肩に手を置いて、瞳をのぞき込むように見てくる。そうされると、感情は勝手に盛り上がり、想いも言葉も止まらなくなってしまった。

「……好き……。私……楠木さんのことが好き」

 私の告白に、彼が口を閉じたままじっと瞳をのぞき込む。そうしていつもの笑顔をくれた。穏やかで優しくて、今日は愛しささえ窺える。それは、私の勝手な勘違いなのかもしれない。盛り上がる感情に、そう見て取れるだけなのかもしれない。だけど。

「僕もですよ」

 再び私は彼の腕の中に包まれた。この想いは間違いじゃない。私の想いも、楠木さんが私を想っていることも間違いじゃない。

「大好きだよ」

 どうしてか涙が零れ出て、楠木さんの手を握り泣いてしまった。そんな私を再び抱き寄せてくれた彼は、やっぱり「生きている」そう感じさせる不思議な感覚を持たせた。

 この温度を忘れてはいけない気がした。楠木さんの声を、言葉を忘れてはいけない気がした。彼と過ごした時間を忘れてはいけない気がした。

 楠木さんはその日「また明日」とは言ってくれなかった。台風が来ているのだから当然なのに。その言葉が聞けなくて、私は不安でたまらなかった。


「台風は猛威を振るい、現在○○県を直撃――――」

 ガタガタと雨戸を揺らす強い風。屋根や雨戸に叩きつけられる雨。ニュースではひっきりなしに台風の状況や、被害を受けた地域の情報を流し続けている。

 この状況下では交通機関も動いておらず、さすがに父と母も仕事へ行くこともできなくてニュース番組をザッピングしながら、それぞれにパソコンを開いていた。

 私は自室に閉じこもり、激しい雨風の音を聞きながら楠木さんのことばかり考えていた。

「僕もですよ」私の言葉にそう返してくれた彼の想いが嬉しくてたまらない。なのに、心の中ではどうしてか晴れない想いが渦巻いて、心を落ち着かなくさせている。

 こんな日に神社へ行ったところで、楠木さんが来ているはずなどないのに、気持ちはウズウズとして今すぐにでもあの神社へ行きたいと思ってしまう。

 なん度も玄関先まで行っては自室に戻る、を繰り返していたら、リビングで仕事をしていた母が呆れた顔を向けてきた。

「外に行こうなんて気、起こさないでよ。危ないからね」

「わかってる」

 そんなのは百も承知だ。だけど、この落ち着かない感情をどう処理していいのか解らなくて、私は布団の中に潜り込み、うーだの、あーだの声を出しては、ぱっと起き上がるなんてことを繰り返していた。

 台風は、翌日の明け方には来た時と同様のスピードを見せ、過ぎ去っていった。まさに台風一過というように、空の汚れ総てを吹き飛ばし、清々しいほどの青を残していた。

 それを確認するや否や、スニーカーを引っ掛け外に飛び出した。

「楠木さんっ。くすのきさんっ」

 彼の名前を呼びながら、駆け足で向かう。神社までの道程が、こんなに遠いとは思わなかった。息が切れ、散乱している小枝に足を取られ躓き、転びそうになりながらも私の足は止まらなかった。

 途中の歩道には、横倒しになった自転車や原付バイクがあり。停まっている車のフロントガラスには、何か硬いものが当たったのだろう、大きなひび割れができている。辺りの細い木は軒並みへし折られ無残な姿だ。それを見るたびに、心臓が痛くなった。いやな動悸がして、泣きそうになる。

「楠木さんっ」

 泣きそうな声で彼の名前を呼び、見慣れた石段を駆け上がる。焦りに苦しいのか、走っているから苦しいのか。私の心臓も肺も悲鳴を上げていた。

 石段を半分ほど上ったところで鳥居に目が行き、余計に気持ちが焦り、足がもつれた。もつれた足を立て直せず、石段で躓き脛と膝を擦りむいた。

「痛い……」

 じりじりと響くように痛む足に掌を当て頂上を見上げる。鳥居はすぐそこだ。

 痛みを吹き飛ばすように足を前に出し、引きずるようにしながらも駆け上がる。

 上った先に人影が見えて、確認もせずに声を上げた。

「楠木さんっ!」

 私の呼び声に反応し、徐にこちらを振り返った姿に落胆の短い息がもれる。

「こんにちは」

 必死の形相で上ってきた女に、神主の三上さんは静かに挨拶をくれた。

 楠木さんの名前を呼ぶことに力を使い果たしたせいか、挨拶を返す気力がない。荒い呼吸をしながら、ゆるゆると頭を下げるのが精いっぱいだった。

 ご神木様の傍に立つ神主さんは、祖母がしていたように手を幹に当てていた。そうして、上を見る。つられるように私も見上げて、絶句した。

「うそ……でしょ……」

 あれほどどっしりとし。何者にも負けるはずなどなく。ずっとずっと、この先も長くここで私たちを見守ってくれると疑いもしなかったご神木様の体は、真ん中あたりから上の方が無残な姿にへし折れていた。それは、まるでご神木様よりもずっとずっと大きな巨人が現れ、乱暴に鷲掴みをし、千切り取ってしまったかのようだった。

「少し前に、病気だと気がつきましてね。だいぶ長く生きておられましたから、弱っていても当然なのですが……。それに加え、昨日の台風でしたから……」

 神主さんはとても寂しそうな瞳で、ご神木様を見つめている。

「治り……ますよね」

 それは当然のことと言うように訊ねた。いや、そうであってもらわなければ困るという、切実な思いから断定的な物言いをしてしまったんだ。

 私の言葉に、神主さんが一度目を伏せた。

「木のお医者さんがいましてね。その方に診てもらおうと思っています。ですが、ここまでになってしまっては、きっともう……」

 多分、大きく有名な神社なら、こんなことにはならなかったのだろう。お賽銭や初穂料などがたくさん入るから、定期的に境内も綺麗にできるだろうし、ご神木様だって診てもらえる。だけど、こんな小さくて、お正月にも近所の住人が来るくらいしかない神社では、定期的にご神木様をお医者様に診てもらうというのは、きっと難しいことなのだろう。

 悲しいけれど、諦めるしかないのだというように、神主さんが地面に向かってこぼした。

 そんな……。酷いよ、どうしてっ。

 ご神木様は、ずっと私の傍に居てくれて。私の話を聞いてくれて。私と共に、ここに住む人たちと共に生きてきたのに。

 ぽたぽたと涙が零れて止まらなくなると、神主さんか慌てたようにハンカチを探しているのだけれど見つからないようで、社務所で休みますか? と声をかけてくれた。けれど、その行為に首を振り、無残な姿に変わり果てたご神木様の根元にしゃがみ込む。

「しばらく、ここにこうしていていいですか?」

 グズグズの鼻声の私に、「もちろんです」と神主さんが優しく声をかけてくれる。後ろ髪を引かれるように踵を返しながら、神主さんが声をかけてくれる。

「社務所は、開いていますから。ご気分が変わりましたら、いらしてくださいね」

「ありがとうございます」

 神主さんの姿が消えて、悔しいくらいの青空の下、ご神木様に寄りかかった。

「ずっと、辛かったんだね。気がつかなくって、ごめんなさい。たくさん話聞いてもらったのに、私なんにもできないよ……」

 話せば話すほど涙は零れて、止まらない。子供みたいに袖口で涙を拭いながら、本当は自分の中で感じていたことを口にした。

「あんなに咳が続いていたのにね。無理やりにでも、病院に連れて行けばよかった。ああ、でも。木のお医者さんじゃないと、ダメだったのかな……。私、ダメだね。自分のことばかりで、ホントダメ。もう、会えないの? もう、名前呼べないの? もう、私の名前、呼んでくれないの? 好きって言ってくれたのに。私だって、大好きなのに。もっとずっと話したかった。もっとたくさん一緒の時間を過ごしたかった。もっともっと抱き締められたかったよ。ねぇ、楠木さん……」

 ぽろぽろとこぼれる涙に構うことなく、私は何度も楠木さんの名前を呼んだ。もう一度紗耶香さんと言って欲しくて、何度も何度も名前を呼んだんだ。

 だけど、もう楠木さんは私の名前を呼んではくれないし。私の前に現れることはなかった――――。


 それからしばらくして、大学構内で彼と全く同じ身なりの男性を見かけた。そばに近寄り視線を向けてみたけれど、彼は当然のように見ず知らずの女を見るようにして通り過ぎて行った。近くにいた友達だろうか。彼から「楠木」ではなく「佐藤」と呼ばれていた。

 佐藤と呼ばれていた彼からは、穏やかな表情も、癒されるような雰囲気も感じられない。

「楠木さん。彼の体借りてたの?」

 困った人だね……。そう言って笑うことで、私は悲しみを打ち消すようにしながら前に進んだ。

 たくさんの話を聞いてもらった。沢山慰めてもらった。沢山元気づけて貰った。それを無駄にしちゃいけないよね。

 空を見上げる。神社から見上げた空よりもずっと大きい空だ。両手を上げて、深く空気を吸い込む。

「何やってんの?」

 やって来た幸恵がからかうように笑うから、幸恵の手を取ってあの時と同じように万歳した。

「こうしてると元気が出るの」

 そう言う私の言葉に関心を持ったのか、幸恵も自ら両手を上げている。

「楠木さん」

 小さく漏らした名前に、幸恵が反応したけれど笑って誤魔化した。


「どうでしょうか……」

 不安な目を向ける私に、樹木医の先生が難しい表情をする。木の周りを見て回り、観察し、生きている音を確認するようにしている。

 再び不安な目をする私と視線が合うと、スッと息を吸った。

「わかりました。三上さん、何とかしましょう」

「え……。本当ですか?」

「はい。しばらく時間はかかりますが、ここまで生きてきた木です。この木の生命力に掛けたいと思います」

 樹木医の言葉にほっと胸をなでおろしたのは、ご神木様が助かるかもしれないという思いからだけではなかった。あの日、沢山の涙を流しながらご神木様のことを愛してくれた彼女のためにも、神主である私は全力でこの木を守りたい。

 ここを愛してくれる人たちのためにも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずっとそばにいて欲しかった 花岡 柊 @hiiragi9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ