エピローグ

 結局、アルはギルドから報酬を得ないまま街を去ることに決めたようだ。


「そのお金は、困っている人に使ってあげてください」


 やれやれ、最後までとんだお人よしだ。


 これは後で聞いた話だが、街の広場にはいつしかイトラ教像が再建されていたらしい。ギルドの連中に言わせれば、「余った金を使っただけだ」なんて言いそうだけど。


 今回はきっとうまくいっただけだ、と私は思う。世の中には色んな人がいる。アルの真摯さに心を打たれる人もいれば、その逆も然り。


 どうしようもない優しさや正しさに、劣等感を抱く人だっているだろう。いや、むしろその方が普通で、そんな人の方が多いかもしれない。


 だけど、きっとアルなら――


「マギ? どうしたんですか?」


「なんでもないよ。少し、考え事をしていただけだ」


「マギはいつもそうですね」


 と、十五歳の教皇は微笑んだ。いつだって、彼女にはそんな表情がふさわしい。


 その純粋さ故に、いつか本当の闇と出会ったときに、挫折しなければいいと心から思う。


(そういう時のために、私はいるのかもしれない)


 だって、アルは私の大切な友達だから。


「早く行きましょう、マギ?」


「……ああ。そうだな」


 次の街に続く道を、私たちはゆっくりと進む。

 この旅の果てに何が待ち受けていようと。

 今度こそは彼女を護る――そんな、強いだけではない自分になりたいと願いながら。


 道端に咲くコスモスの花が、穏やかな風に揺れていた。







 



 

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イトラ教戦記 神崎 ひなた @kannzakihinata

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