「ア……アル……どうして……なんでこんな……」


 アルの魔法は強力で、ゴーレムである私ですら口を動かすのがやっとだった。ギルドマスターたちは頬を強張らせることすらできない。


「もう少しで……落石鳥を……倒せたかもしれないのに……どうして……」


 この人数なら押し切れたかもしれないのに。どうしてわざわざ勝ちを捨てて、命を捨てるような真似をするんだ、アル!


「うーん、そこなんですよね。私からすれば、


「な……に?」


 どうしても何も――最初からそれが目的だったじゃないか。

 落石鳥の脅威から住民を救い、イトラ教の汚名を返上をする。それが目的だろう。


「キュウウウウ……」


 見れば、落石鳥はじっとアルを見つめていた。襲ってこそ来ないが、警戒したような瞳で、じっとアルを見つめている。


(く……くそ。このままでは……)


 アルを助けようにも、体が動かない。どんなに力を入れてもビクともしない。それはギルドマスターたちも同じだろう。見えないが、必死で動こうともがいているはずだ。


「大丈夫。怖くないよ。もう、あなたを傷つけたりなんてしないから」


 そう言って、アルは杖を放りなげた。馬鹿な! それがなければ、魔法を使うこともできなくなるんだぞ!


「大丈夫。大丈夫だよ。安心して。もう、怖い夢を見ることもないから」


(夢――だって?)


 その言葉に、私はある仮説を思い付いた。


 そもそも落石鳥は、眠りが浅くなっていたから、悪夢にうなされていたから、人里の近くまで寝っ転がってきたわけで――そこに人を傷つけようとか、捕食しようなんて考えが、無かったことは明白で。


(そうか――! つまり、アルは――!)


 最初から、落石鳥を倒すつもりなんて無かったんだ。

 思えば、昨日から今までの間、アルは一度たりとも、使――!


(そうか……言われてみればその通りだ……)


 住民が不安がっているとはいえ、落石鳥を倒す必要はない。原因が寝つきの悪さ、悪夢にあったとすれば、また


 だからアルは最初に、安息魔法を使ったんだ――落石鳥を、眠れる落石鳥に戻すために。


 アルは最初から、みんなが平和でいられる方法を探していたんだ。


「ごめんね。急に起こしちゃって。あなたを不安にさせてしまって。でも、私たちは敵じゃないんだよ。もう、あなたを襲ったりしないから。だから、安心して休んでね」


「キュオ……オオ……」


 落石鳥の体が、優しい光に包まれた。どうやら彼女は、杖なんか無くても魔法を使えるらしい。

 そんな光に促されるように、落石鳥はゆっくりと瞼を閉じた。やがて、穏やかな寝息を立て始める。


(やれやれ――とんだ取り越し苦労だった)


 アルを護るどころか、率先して危険な目に合わせて。本当に大切なことを見失って。

 護るべき相手から、最終的には護られている。


「そういう見方もできるかもしれませんね。でもね」


 と、アルは私やギルドマスターと向かい合ってこう言った。


「マギも、ギルドのみなさんも――私を助けに来てくれて、本当に本当に嬉しかったんです。だから、一つだけ言わせてください」


 アルは、いつにも増して満面の笑みを浮かべた。

 やれやれ――本当に叶わない。

 思わず一生着いていきたくなるくらいに――なんて、もしかしたら、この場の全員が、同じことを想っているかもしれなかった。


「ありがとう、みんな」


 ――かくして落石鳥との熾烈な争いは、ここに幕を閉じた。


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