8
「ア……アル……どうして……なんでこんな……」
アルの魔法は強力で、ゴーレムである私ですら口を動かすのがやっとだった。ギルドマスターたちは頬を強張らせることすらできない。
「もう少しで……落石鳥を……倒せたかもしれないのに……どうして……」
この人数なら押し切れたかもしれないのに。どうしてわざわざ勝ちを捨てて、命を捨てるような真似をするんだ、アル!
「うーん、そこなんですよね。私からすれば、どうしてみなさんが落石鳥さんを倒そうとしているかが分からないんですよ」
「な……に?」
どうしても何も――最初からそれが目的だったじゃないか。
落石鳥の脅威から住民を救い、イトラ教の汚名を返上をする。それが目的だろう。
「キュウウウウ……」
見れば、落石鳥はじっとアルを見つめていた。襲ってこそ来ないが、警戒したような瞳で、じっとアルを見つめている。
(く……くそ。このままでは……)
アルを助けようにも、体が動かない。どんなに力を入れてもビクともしない。それはギルドマスターたちも同じだろう。見えないが、必死で動こうともがいているはずだ。
「大丈夫。怖くないよ。もう、あなたを傷つけたりなんてしないから」
そう言って、アルは杖を放りなげた。馬鹿な! それがなければ、魔法を使うこともできなくなるんだぞ!
「大丈夫。大丈夫だよ。安心して。もう、怖い夢を見ることもないから」
(夢――だって?)
その言葉に、私はある仮説を思い付いた。
そもそも落石鳥は、眠りが浅くなっていたから、悪夢にうなされていたから、人里の近くまで寝っ転がってきたわけで――そこに人を傷つけようとか、捕食しようなんて考えが、無かったことは明白で。
(そうか――! つまり、アルは――!)
最初から、落石鳥を倒すつもりなんて無かったんだ。
思えば、昨日から今までの間、アルは一度たりとも、倒すだなんて言葉は使っていない――!
(そうか……言われてみればその通りだ……)
住民が不安がっているとはいえ、落石鳥を倒す必要はない。原因が寝つきの悪さ、悪夢にあったとすれば、また元通りに深い眠りについてもらえばいいだけの話。
だからアルは最初に、安息魔法を使ったんだ――落石鳥を、眠れる落石鳥に戻すために。
アルは最初から、みんなが平和でいられる方法を探していたんだ。
「ごめんね。急に起こしちゃって。あなたを不安にさせてしまって。でも、私たちは敵じゃないんだよ。もう、あなたを襲ったりしないから。だから、安心して休んでね」
「キュオ……オオ……」
落石鳥の体が、優しい光に包まれた。どうやら彼女は、杖なんか無くても魔法を使えるらしい。
そんな光に促されるように、落石鳥はゆっくりと瞼を閉じた。やがて、穏やかな寝息を立て始める。
(やれやれ――とんだ取り越し苦労だった)
アルを護るどころか、率先して危険な目に合わせて。本当に大切なことを見失って。
護るべき相手から、最終的には護られている。
「そういう見方もできるかもしれませんね。でもね」
と、アルは私やギルドマスターと向かい合ってこう言った。
「マギも、ギルドのみなさんも――私を助けに来てくれて、本当に本当に嬉しかったんです。だから、一つだけ言わせてください」
アルは、いつにも増して満面の笑みを浮かべた。
やれやれ――本当に叶わない。
思わず一生着いていきたくなるくらいに――なんて、もしかしたら、この場の全員が、同じことを想っているかもしれなかった。
「ありがとう、みんな」
――かくして落石鳥との熾烈な争いは、ここに幕を閉じた。
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