結論から言えば、戦いにすらならなかった。


 こちらの攻撃はかすりもせず、落石鳥はといえば、巨大な翼を使った羽ばたきだけで私を完全に無力化していた。


 いかな膂力りょりょくを誇るゴーレムとはいえ、身動きが取れなければどうにもならない。近接戦闘インファイトにさえ持ち込めれば勝機はあるが、それすらも許してくれない。


 暴風域ならぬ、防風域――


 しかも、防風によって飛来する木片や、石つぶてを一方的に食らってしまう。いくら私がゴーレムで頑丈とはいえ、ダメージにも限界がある。


(なるほど。石の雨を降らせる、故に落石鳥――言い得て妙だ)


 そんな致死的な風の中、アルは――私が吹き飛ばしたときに気絶したようだが――ちゃっかり防御魔法ガーディアンを展開していた。今のところは無事のようだ。


(だがアルの魔力とて無限じゃない! このままでは――!)


「ふん。要は、あの風さえどうにかすりゃあいいんだろぉ――」


「え……その声は……!?」


「ブッ飛ばせ、風神魔法ゼピュロイデス!!」


 その瞬間、風の向きが変わった。落石鳥を中心に吹き荒れていた風が一転、落石鳥を包みこむように渦を巻く! それだけではない! 凄まじい風圧によって生じた真空波が、落石鳥の体を引き裂いた! 


「キュエエエエエアアアアッ!!」


「ったくよぅ。できもしねぇクエストを受注するからこうなるんだ。命知らずがぁ」


「ギ……ギルドマスター!?」


「俺だけじゃないぜぇ。手当たり次第、声をかけてある」


 その言葉に応じるように、森の奥からぞろぞろと、ギルドメンバー達が現れる。昨日ギルドで見かけた顔も、いくつかあった。


「ど――どうして!? 私たちを助ける理由などないはず!」


「けっ。あんだけデカい声でかれりゃ、嫌でも気が付くってのぉ。それになぁ」


 と、ギルドマスターは呆れた表情で、メンバー達を指刺した。


「こんの馬鹿どもが、ど~~~してもあのお嬢ちゃんを助けてぇっていうから、仕方なく来たんだ!! そんだけだぁ!!」


「って、アニキは言ってるけどな。あのお嬢ちゃんの言葉に一番感動してたのはアニキだぜ」


「うるせぇ余計なこと言うな馬鹿タレがぁ!! ……ま、そういうわけだ。今回くらい、大人しく助けられろ」


「ギルドマスター……」


 そうか。一見、無謀にしか思えなかったアルの行動が、勇気が、優しさが。この人たちの心を動かしたのか。


(まったく……アルには叶わないよ)


 こんな展開を彼女が想定していたとは思えないけれど、結局のところ、アルは無計画でこの窮地を乗り切ってしまったのだ。


 Sランクの害獣を倒すなんていう、無理難題を。


「なに勝手に終わったつもりになってんだぁ! 落石鳥の首を落とすまで油断すんじゃねぇ!」


「ああ……!!」


 そうだ。いくら優勢とはいえ、まだ決着はついていない。相手はSランクの害獣だ。

 今後に及んで油断なんて、決して――


「本当ですよ。何を勝手に終わった気になっているんですか?」


「え――」


 その瞬間。

 まるでその場の空気がすべて凍り付いたかのように――何もかもが止まった。静止した。


(いや、違う。これは――)


神経麻痺魔法パラライズド。みなさん、これでしばらくは動けません」


 ゆっくりと起き上がったアルは、にこり、と。


 いつも通り、柔らかな微笑みを浮かべているのだった。

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