衆目の中、処刑場で銃殺される踊り子のお話。
面白かったです。読み始めてすぐ、何がなんだかわからないうちに、頭から物語に飲み込まれていました。読み終わった今でもなんだかわかっていません。すごいものを見ました。
凄まじい迫力です。書かれているものの骨太さと、それを完璧に支え切る文章の技巧。くらくらと眩暈のするような展開の妙と、心の芯にゴリゴリ牙立てて食い込んでくるかのような結末の余韻。
最高でした。このレビュー欄で何を言えばいいのかわかりません。ぴったり3,000文字の物語、レビューや感想として言い換える必要性すら曖昧です。読めばわかるので読みましょう、そのひとことで済んでしまう。
これじゃあんまりなのでとにかく思ったままに好きなところを挙げるなら、やっぱり書かれているものそのものが一番好きです。主人公の心情、〝彼女〟に対する思いというか、その中に見出しているなんらかの感情。それが現実の光景として顕出する終盤(処刑の場面)と、そしてそのあとの結びの一行。まるで縋るような、救いを求めるかのようなあの「せめて」が、胸の真ん中にぶっすり突き刺さったまま抜けません。
とにかく、好きです。この作品を読めてよかったと、心の底から思える物語でした。
完成度が半端ないです。
台詞がなく、音楽もなく、あったのは罵声と銃声。それだけの舞台にも関わらず、「私」が惹かれた彼女の踊りが確かにそこにありました。
この話、舞台設定が非常に上手いのですよね。
隔絶した舞踊の才、それに全てをささげることのできる精神性、その両方を持った人間の生き様を短編で描くなら、極限状態での最後の踊りしかない。かといって長い人生の果てに技術の代わりに肉体的な衰えを得た状態の踊りではその生き様の鮮烈さを表現しきれない。そういった条件をひとつひとつ突き詰めていった結果が、キャッチコピーと共に出された一言だけのあらすじである「朝刊の一面で、私はかつての知人が処刑されることを知った。」だったのだろうと。これは痺れます。
そしてダンサー本人ではなく、技能で遥かに及ばないながらもその才の意味を十全に理解している「私」を語り手に持ってきているのもとても上手い。
舞台設定のひとつひとつ、キャラクター設定のひとつひとつに作者の計算とセンスがしっかりの織り込まれた三千文字でした。
素敵な話をありがとうございます。