一人の天才の終わり。

 完成度が半端ないです。
 台詞がなく、音楽もなく、あったのは罵声と銃声。それだけの舞台にも関わらず、「私」が惹かれた彼女の踊りが確かにそこにありました。
 この話、舞台設定が非常に上手いのですよね。
 隔絶した舞踊の才、それに全てをささげることのできる精神性、その両方を持った人間の生き様を短編で描くなら、極限状態での最後の踊りしかない。かといって長い人生の果てに技術の代わりに肉体的な衰えを得た状態の踊りではその生き様の鮮烈さを表現しきれない。そういった条件をひとつひとつ突き詰めていった結果が、キャッチコピーと共に出された一言だけのあらすじである「朝刊の一面で、私はかつての知人が処刑されることを知った。」だったのだろうと。これは痺れます。
 そしてダンサー本人ではなく、技能で遥かに及ばないながらもその才の意味を十全に理解している「私」を語り手に持ってきているのもとても上手い。
 舞台設定のひとつひとつ、キャラクター設定のひとつひとつに作者の計算とセンスがしっかりの織り込まれた三千文字でした。
 素敵な話をありがとうございます。

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