観覧車に自縛しちゃった悪霊と、それを説教する死神、そしてそこに現れるひとりの女の子の物語。
不幸とか恨みとか悪意とか不条理とか、そういうのがぐるぐる煮詰まっていくようなお話です。
特筆すべきはキャラクター、というか、彼らの立場やものの見方の違いです。悪霊と、死神と、いろいろしんどい女の子。まさに三者三様といった趣で、それぞれの立場に感情移入したり、あるいは反証を考えてみたりと、読み進めながら脳内でごちゃごちゃやる感覚が楽しいです。
中でも一番惹きつけられたのは、やっぱり視点保持者であるところの悪霊さん。彼の物事の考え方、存在の希薄さをそのまま表したような、なんとも悪霊らしい地の文の描写が好きです。
何もかもが無価値、と断ずるわりに、人間の幸せに対して強い執着を見せる。観覧車に留まりながら訪問者をただ機械的に呪う、その完全にパターン化された行動様式。きっと外から見たなら希薄で曖昧な状態であろう、この悪霊という存在そのものを、でも地の文を通じて内部から活写してみせること。
この〝もしかしたら曖昧かもしれない自律意思〟を、でもしっかり言語化した状態で読まされる、という、この読書感覚がとても新鮮でした。いわゆる「信頼できない語り手」、とは少しニュアンスが違うのですけれど(大目的という面では全然違う)、でも構造的な面白みとしてはそれに似ている部分があると思います。
そして、この感覚をたっぷり味わった上での、終盤の展開。主人公の内面の、その小さな変遷が楽しい作品でした。
誰の手によるのか忘れたし題名も失念したが、とある作品の中で空き瓶を集めるのが趣味の女性が出てくる。彼女はマンションの一室を別な女性と分け合っており、その相手から『放っておくと私達の部屋は空虚によって満たされるという甚だ矛盾した状況になる』という主旨の心情が吐露されていた。
本作の主人公もまた、空虚によって満たされた矛盾だらけの存在だ。それが奇妙にも好奇心を刺激するのは、観覧車という舞台背景ともう一人の登場存在によるだろう。
本作で注目すべきは、誰もが作中に登場する必然性を持っているのに誰もが空虚を抱えている点にある。それを一つ一つ検証するのはネタバレなので控えるが、逆に申さば是非とも直に確かめて欲しい。
その時、自分の心に空虚が巣食っていると自覚している読者については、どうすればそれが満たせるのかなにがしかの考察の糧になり得るだろう。
必読本作。
なにかに意味があるのかないのかを考えるのは、大体においてその事象に嫌気がさしている時や疑問をもってしまった時が多いような気がします。
でも一旦そこに意味がある/ないを決めた人は客観的に見てある種格好良さがにじみ出てくるなあと思います。
この話の主人公は観覧車に取り付く地縛霊で、信条として自身を無意味だと思っています。開き直った幽霊ほど怖いものはありません。死神の説得にも動じずに観覧車に近づく人々を呪い続けます。そこに呪いが効かない訳あり少女が現れて……というお話です。
短いながらもよくまとまっていて、少女と地縛霊の関係性やときおりの台詞に胸が打たれる作品だと思いました。特に主人公が語る意味についての一家言は説得力があり、最後には厭世的な地縛霊が好きになること請け合いです。
観覧車に居座る悪霊。
生前の記憶は無く、どうして自分が死んだのかも分からない。
彼が唯一抱いている感情は、生きている人たちに対しての憎悪だけでした。
観覧車に乗る者を不幸にする呪い。
死に至らしめることはなくても、絶縁や不慮の事故を起こしてしまう。
そんな悪霊さんでしたが、とある少女と出会い、知らずのうちに考えが変わっていきます。
死神曰く――愛を知った、のです。
人は愛情によって育てられる。
与えられた分だけ、他人にも与えられるのだと、どこかで聞いたことがあります。
そう考えてみると、記憶のない観覧車の悪霊さんも、生前はちゃんと誰かに愛されていたのかもしれませんね。
※この度は「お化け企画⑦」にご参加くださり、ありがとうございました。