ゲームオーバーになったらどうなるか

この作品にとっての「死」は、ゲーム内のプレイヤーからNPCになり、その後の生涯を生きなければならないということです。

ネット社会を生きる現代人にとって、これは本当の死よりも辛いことではないでしょうか。

インターネットとは、ごくごく一部の頭のいい資産家が設計したもの。彼らは物心ついた頃から「自分は主役になれる」と確信し、実際にそうなるだけの能力と資産を持っています。そんな人たちがSNSというものを作り、「双方向間の情報交換を実現させれば、世界はより良くなる」と公言しました。

それは、半分は正解です。ですがもう半分、インターネットの設計者たちは「人間の殆どは価値ある情報を持たないNPC」ということを見落としていました。

TwitterにしろFacebookにしろ、「みんながプレイヤー(PC)」です。言い換えれば、NPCの存在を許しません。だからこそ、サラリーマンから高校生、中学生、小学生、自営業者、地方在住の農家、果てはどこかの国の自然保護活動家まで「私はPC」と主張します。NPCになることは、即ち死を意味します。

インターネットを突き詰めると、結局はこの作品の世界観のようになっていくんですよね。

そのあたりをしっかり認識して書いているのは評価に値しますが、問題は世界観やゲーム内ルールを解説するために、序盤の尺がごっそり奪われているという点です。

丁寧に説明しておきたい気持ちは理解できますが、小説では「説明」は「描写」に勝ることは絶対になく、常に「描写」を重ねながら物語をエンジンのように回していく……というのが一番の理想形です。

それを鑑みると、いささかロースタートかな? という感想は否めませんでした。

ただ、それを補うように「章毎にキチンと話をまとめている」という点が光っています。とりあえず第1章の最後まで読み進めてみると、話が綺麗にストンと落ちてるんですよね。これは本当に小気味いい感じです。登場人物の躍動も頭の中で再現でき、ひとつの作品としての読み応えは大いにあります。

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