フェイクに惑わされるな、ゲームで息遣いを感じろ。

 私はこの作品を、一度投げた。
 プロローグで描かれる星倫典の独白で、まるでVRを利用した新たな学園ドラマが始まるのかと期待したが、その実はゴリゴリのバトルものであった。
 そのギャップにやられてしまった私は上記の通り、一度投げた。

 しかし改めて見てみると、これが良くできている。
 大抵のVRMMOは序盤に、独自の世界観と、独自の設定で膨大な知識を読者にぶん投げる設定資料集が存在する。
 私はこの物語の面を被った設定資料集が大嫌いで、そんな作品は挙って投げたものだった。
 しかしこのFakeEarthは何を隠そう、地球を舞台にしているが故に、単純にその知識量が半分になる。
 しかも序盤から自然に始まるチュートリアルと、苛烈な戦闘シーンは計算つくされているかのように、戦闘の高揚感を失わせずに、私たちに優しいチュートリアルを行ってくれる。

 またゲーム内であるというのに、精緻な世界は、その圧巻の描写力によって、文字を鮮やかな画に変化させられる。
 それはまさに「……現実世界を完璧に再現したゲームか」と、読者を唸らせるだろう。

 悪いところを上げるとすれば、多用される傍点と、チープな擬音が気になった。
 上記のように、主人公のクールな独白や、繊細な世界の描写の中で、女子高生の飲むタピオカの如く文章内に転がった傍点はいささか冷める。
 また擬音もあり来たりでありながら下手にアアアアアと長く続いたようなものが、少し見苦しく感じてしまう。
 これこそ筆者の描写力が故に気になってしまうところであるために、読んでいてもっと他に方法はなかったのかと、筆者の技量にこれ以上を期待してしまう。

 しかしそれを抜きにしても、面白い作品だった。

 タイムマシンが出来たら、まず、私はこの作品を投げた自分を殴りに行こう。これはお前の文章力を高めることの出来る作品だ、と。

 FakeEarthのこれからを、心から期待しています。完結した際に星3つにさせていただきます。

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