糸が見える少女の数奇な人生

 人の状態を表す〈糸〉が見える少女の物語。最初こそ感情と描かれていたので、人の心が読めるといったよく見る系主人公と思ったら、それが少し違う。ここでは便宜上状態と称しているが、糸の性質は物語の中で明確に表されるわけではないので、説明は難しい。しかし確かに少女に普通の人生を歩ませない要因になっている。
 なぜキーワードが糸であるのか、なぜタイトルが糸遊であるのか。こういった物語における疑問となるちょっとした仕掛けも、六千字という短い文字数の中でしっかりと解明されているのは非常に好感が持てる。
 何より短編たる簡潔さと、主人公たちの絶妙なキャラの掘り下げ具合が非常に心地よい。主人公は糸が見えるが故に、他の人たちと違って、ある程度の達観がある。それに対し、不思議な青年ナナシも絶妙な奇妙さを持っているあたりが、物語におけるキャラクターの役割をとても充実に再現していて、まさに短編のために作られたキャラクターとしてうまく作用していると思う。
 三点リーダーが奇数であったり、感嘆符の後ろに空欄がないなどの細かいところは気になりはするが、読めないというわけではない。
 基本的に私は字下げがされていないなど、インターネット小説たるインターネット小説は読まないのだが、この作品はそういった細かなことを気にさせない面白さとテンポの良さがあったと思う。

 糸遊、とても面白かったです!