流麗な文体に引き込まれる。人と、獣と、妖の世界。己に流れる血は、人の紅か、妖の白銀か。慈しんでくれた母の愛を想い、しかし母への疑惑に苛まれる。身を切るような苦悩の果てに、開眼した墨蓮の選んだ道は。哀切に琵琶が鳴る。気高く美しい、人妖の物語。
中華を舞台にした、人と妖の狭間に立つ盲目の主人公。盲目ゆえに葛藤し、己が存在の意味に困惑する。 この作品の醸し出す幻想的な世界観は中華の山中に存在する神仙の世界を幻視させる程に美しい。そして妖の世界の不思議な気配をその文章から確かに感じる。これは芸術的な絵巻物を彷彿とさせるものだ。 人としての血に応えながらも人に戻れぬ主人公の選んだ結末は──。 短編ながらに世界が広く深い作品でした。
古文のような美しい文体と主人公の葛藤、物語の美しさに心を掴まれました。これぞ文才なのだと、率直に思います。今後のご活躍を楽しみにしています。
月すめば よもの浮雲空にきえて み山隠れに ゆくあらしかな 藤原 秀能 月が澄むと、四方にある雲が空に消え、深山に隠れて嵐が去っていくという意味である。 秀能は承久の乱で後鳥羽上皇に味方し、敗れて熊野で出家する。上記はその熊野で詠まれた。 ある意味、本作の主人公がたどるであろう心境に沿った感覚を覚えたので披露した。 詳細本作。
いにしえの世界、あやかしの住む山中を描く文体がすばらしく、どんどん引き込まれます。人として何を超えて何を残すのか。様々に成長するわたしたちにとっても、課された命題だと感じます。
自分の宿命に向き合い、果断な決断を下す主人公が素晴らしいと思いました。古風な文体、和風ファンタジー的な世界観、様々な生き物に変身する主人公の能力など、魅力的な設定が詰め込まれた本作ですが、それらが単に「イイ感じの雰囲気」に奉仕するだけではなく確かなリアリティを醸し出している。それは、「行くとこまで行く!」主人公の気概と勇気ある行為がちゃんと示されているからです。一本の古槍のような骨太な物語、ぜひ一気読みしてください。