何故、『母』は盲目の子の話を語ってきかせたのか、何故、『子』は『弟』を選んだのか、過剰な『何故の解』を敢えて語らぬこと、それを埋めるように山河の暮らし、妖かしの定めを美しくかつ残酷に語ること。このふたつの相互作用が織りなす、一種、水墨画のような幽玄の物語。
血か育ちか愛か覚悟か。主人公が葛藤する様を美麗な世界感を背景にして丁寧に描いた作品です。ファンタジーが飽食気味な人にこそ読んでほしい、人と妖の物語。山月記でもなく、もののけ姫とも違う。けれどそれに通ずるような深く、物悲しく、苛烈な一面も垣間見せる物語です。気になった方はぜひどうぞ。
なんと言っても地の文の濃さです。本当に昔話を紐解いているような、初めから最後まで、全く崩れない美しい文章が深く深く読者を世界へと連れて行ってくれます。主人公は盲目なのですが、山の中の場景が丁寧な描写の中に浮き上がってきます。語りかけてくる精霊、花の匂い、琵琶の音色、母の指先……そして、血の香り。目の前に映像があるかのようでした。何度読んでも素晴らしくて、現在三週目をしたところです。色んな方に読んで欲しい作品です。
この世界観を表現するにはどう言えばいいんでしょう。古典のように品がある物語。世界観に合った独特の文体。僕の語彙力じゃそれ程度の表現しかできません。とにかく読んでみてください。短編とは思えない深みのある物語です。
人の子と疑惑を向けられるあやかし。あやかしの世界で成長し、イニシエーションがあります。ずっと、どんな話になるのか、盲目の主人公のように暗闇を手探りで読み進む感じがあります。和風ファンタジーです。あやかしの世界を抜け出し、人間の社会に。クライマックスは突然やってきます。鮮やかな手腕で一気に視界がひらけ人間ドラマを盛り上げてラストへ。すわりのよい結末でした。
人と妖、都と山、男と女、陰と陽の如く別たれた世界で生きてゆく主人公の物語。自分はどちらなのかと問いかける主人公の切なさが染みるお話でした。