Epilog

 ♪ ♫ ♬ ♩ 🎶 


 楽屋から一歩足を踏み出すと、スポットライトの光が途端に視力を奪う。

 漆黒のグランド・ピアノが艶めく舞台中央へ進み出る。客席は暗く、隙間なく座席を埋める人々の顔は影になり、誰が誰だか分からない。


 高鳴る鼓動に全身が痺れるような、早まる脈に四肢の端まで打たれるような感覚。


 ピアノの前へ座る間際、一瞬だけ、輪郭のぼやけた暗がりの左奥へ視線を投げる。


 ——大丈夫。


 緊張が心地良さに変わっているのを感じ、響子は深く息を吸った。そして細く吐き出すのと一緒に、閉じた目を開けて、ゆっくりと深く指を下ろす。



 始まりの一音が、ホールを満たして鳴り響いた。



 ♪ ♫ ♬ ♩ 🎶 Segue, senza replica, senza Fine. ♪ ♫ ♬ ♩ 🎶 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法の隠し味はいつも君が(改稿) 佐倉奈津(蜜柑桜) @Mican-Sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ