社会に呑まれた心が呼ぶ悪夢。何者にもなれない者たちに、獏は救いを齎すか

こうなりたいと思い描く理想の自分と、そこから程遠い現実の自分。
受け入れられない現実を抱えたまま、社会に馴染めず精神が磨耗していく……
そんな心の闇に滑り込む悪夢の病をテーマにした、ミステリ調ヒューマンドラマです。

リアリティのある精緻な筆致で綴られるのは、きっと誰もが覚えのある劣等感や挫折感。
読者は、前半部の主人公である映の心境に深く共感することでしょう。

そんな映を襲った、恐ろしい怪物の登場する悪夢。
特定の患者の間で蔓延する『悪夢病』の謎を紐解くため、映の恋人である幸や主治医の清川は調査を進めます。

なぜ彼らは悪夢を見るのか。
そこに誰かの悪意があるのなら、その悪意は何から引き起こされたものなのか。

明かされた事実に、胸を衝かれました。
あぁ、みんな同じなのかもしれない、と。

自分が何者にもなれないと気付いた時、その原因や責任をどこに求めるのか。
現代社会の病理とも言える問題に切り込む作品だと思いました。
非常に読み応えのある物語です。

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