人間の「実感」とは、どこに宿るのか?

 ゲーマーの主人公は、ピザの配達の仕事をしながらも、ゲームに夢中だった。それは仕事中にでもゲームのことを考えてしまうほどの、ゲーム中毒だった。そんな主人公にも、彼女がいた。うどん屋の娘で、主人公と同じくゲーマーだ。ただし彼女がやっていたのは、猫を集めるというかわいらしいゲームだった。一方主人公がやり混んでいたゲームは塔がそびえる世界での戦闘系のVRゲームだった。実は彼女がやっていたゲームも、主人公がやっていたゲームも、キャッスルフロンティアKK社が運営元だった。
 主人公はその会社に新入社員として入社する。主人公はこの会社の上司に、5万人に1人という「感覚超越者=ヴァーチュアス・ゴドレス」であると言われ、期待されっる。主人公も、キャッスルフロンティアKKのVRゲームは、最も人の生態に近いゲームではないかと考えていた。現実でピザの宅配をやりながら、それなりに彼女がいる。そんな満たされながらも、どこか不安定で不安な現実よりも、会社で働く方が生きているという実感があった。この会社で働くのは、主に脳である。体は点滴や栄養剤のチューブにつながれ、管理されてる。主人公が会社の説明を受けながら働こうとしていた矢先、ハッカーに会社が狙われ、車内に多数の蜘蛛が出現し、戦闘となり、社員の一人が主人公の目の前で重傷を負う。
 本格的に働き始め、主人公は社内にゲームと同じ塔が見える気がしてならない。上司は否定するが、ある社員は肯定する。そんな中、主人公は彼女に会社の黙秘事項を話してしまい、彼女も連れて会社に来るように命じられる。
 果たして、浮かび上がる塔の正体は?
 主人公とその彼女の行き着く先は?
 人間の実感をもたらしているのは、脳だけなのか? では、脳さえあれば人は自身の体さえいらなくなってしまうのか? それならば、水槽に脳だけを入れて生かしてあるのとどこが違うのだろうか。

 ゲームだけではない、人間の本質を問い直す一作。
 是非、御一読下さい。

その他のおすすめレビュー

夷也荊さんの他のおすすめレビュー1,168