第7話

 時刻は夜の8時15分。

 書類作成も佳境を向かえていた。


 残りの作業は誤字脱字のチェックと、文章に違和感が無いかのチェックの、2つだけ。

 と言っても、推敲は文章作成途中にある程度済ましている。

 だから、そこまで大掛かりな変更はないだろう。

 本当に細かい部分の修正だけ。


 俺は時計を確認する。

 予定よりも少しだけ早く終わりそうだ。

 ほんの数分。十数分。

 しかし、それが人を待たしてる身としては大きいように感じた。


  PC画面に視線を戻す。

 1番最初のページに戻る。


「あれ」


 1番最初のページに戻る。


「あれ......」


 1番最初の......。


「嘘だろ......」


 PC画面が動かない。

 フリーズだ。

 微動だにしない。

 心がざわめく。

 マウスを動かす。反応しない。

 焦る。

 マウスを、クリックする。反応しない。

 焦る

 キーボードを、打つ。反応しない。

 焦る。


 こんな経験は初めてだ。

 重要な書類を作っているときにパソコンがフリーズするなんて。

 こんなタイミングありえない。

 

 俺は一旦冷静になりスマホ取り出す。

 Googleを開き対処法を調べる。


 パソコン フリーズ 対処法


 そして、一番上のサイトを開く。

 そこには、

 『マウスやキーボードが動かない場合は強制終了するしかないです。

 強制終了した場合、保存されていないデータは消えます』


 季節は冬だと言うのに、俺の額には汗が滲む。


 パソコンを強制終了させると再び、電源をつける。

 恐る恐るファイルを確認すると。

 無かった。

 先ほどまで俺が作っていた書類は、微塵のかけらもなく残っていなかった。

 血の気が引く。絶望すらできない。放心状態。

 


 普段なら親の敵のように保存する癖が、今日は機能していなかった。

 原因は疲労だろう。

 疲労により注意散漫。

 疲労の原因はこの時期特有の忙しさ。

 今は年末。

 残業はほぼ毎日。

 それによって寝不足。

 癖の一つや二つ抜けたっておかしくなかった。

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