第8話
20時半。放心状態。
デスクチェアの上で燃え尽きる。
体が、脳が、全く動く気がしない。
ルイカルさんとの約束も、今度こそおじゃんだ。
これ以上待たす訳にはいかない。
断りのメッセージを送ろうとスマホを握ったその時、見知った人物が現れる。
「あれ、暮山さん?」
この間お昼を食べに行った後輩の女性社員だ。
確か今日は三ツ星レストランで彼氏とデートの筈。
「まだ、いたんですね?」
「まぁな......それより、どうした? こんな時間に」
「忘れ物しちゃって」
そう言うと女性社員は自分のデスクへ向かう。
俺はそんなことよりも精神統一を図る。
この放心状態から復活するには、自分を奮い立たせする他無いのだ。自分に言い聞かせる。
俺には出来ると。やらねばならぬと。
そんなことを考えていると女性社員がこちらを見てきた。
驚いた表情を浮かべている。
「暮山さん。どうしたんですか? 顔色、滅茶悪いですよ」
今起こった出来事を話そうか迷ったが。
「ちょっとな......。色々あって」
「まだ終わりそうにないんですか?」
「もう暫くかかる」
「そうですか。頑張ってくださいね」
女性社員は踵を返して行った。
俺はとりあえず、ルイカルさんにメッセージを送る。
『ルイカルさん。本当にごめんなさい。仕事が終わりそうにありません。こちらの勝手で申し訳ないのですが今日の食事は中止にしませんか?』
俺はスマホをデスクに置いた。
天井を見上げる。
虚しい気持ちが湧き上がってくる。
汐路さんは今頃、デートしているのだろうか?
よせばいいのにそんなことを考えてしまう。
そして想像は発展する。
デートとは具体的にどんなことをしているのだろうか?
レストランにでも行ってるのだろうか?
プレゼントでも貰ってるのだろうか?
その後は......。
俺は頭を振る。
無駄な思考はやめる。
考えをリセットする。
現実をみる。見たくない現実を......。
逃げ出したかった。今すぐ誰かに慰めて欲しかった。
誰に?......誰にだろう。
ルイカルさん? 汐路さん?
多分両方だ。
それが叶わないと知って、絶望してしまう。
何も出来ないまま、時間が過ぎる。
そんな中、スマホの通知音が鳴る。
きっと、ルイカルさんだ。
ルイカルさんの事だから多分怒っては無いと思う。
けれど俺への信頼度はかなり減っただろう。
俺はメッセージアプリを開いた。
『お仕事、お疲れ様。大変そうだな。だから謝るな。そちらが勝手なお願いをするなら、こちらも勝手なお願いをさせて貰おう。待っているから来い』
全身に鳥肌が立つ。目が冴える。やる気がでる。
俺はすぐに返事を送る。
『すぐ向かう』
そして、仕事を再開した。
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