第10話
薄目を開ける。徐々に意識が覚醒していく。
ここはどこだ? 会社だ。
疑問が湧くがすぐに倒れたんだと認識する。
頭に不思議な感覚。頭だけが浮いている。
どこか懐かしい。心地良い。安心感。
頭の下を手で確認する。暖かい。サラサラしている。生地? 布生地?
次は揉む。モチモチしている。柔らかい。
なんだろう? 答えが見つからない。
枕ではない。それに類似するものでもない。
では......。
「暮山さん?」
びっくりする。どこからか声が聞こえる。
「暮山さん。起きてるんですか?」
声は上から聞こえている。
「暮山さん?」
振り向く。起き上がる。
「痛たたたた......」
「ご、ごめん」
頭と頭をぶつける。お互い痛がる。そして驚く。
この時間、この場所に絶対にいるはずのない人物が目の前にいる。
「汐路さん……何で……?」
「〇〇さんに聞いて......暮山さん、まだ会社に残ってるって......」
さっきの女性社員だ。
「それで......」
「来てくれたの?」
無言で頷く。
嬉しい。俺の為に来てくれた。その事実がとても愛おしかった。
でも、同時に疑問も生まれる。
「今日、デートって?」
苦々しい表情を浮かべる。
「えーっとですね......。あの時、クリスマスに予定があるって言ったのはですね……」
間が空く。
「......嘘なんです」
こちらの様子を伺ってる。
嘘をついたのには理由があるのだろう。
理由が気になる。
聞こうか聞かまいが迷ったが。
「何でそんな嘘を?」
「言いづらかったんですよ......。皆、予定あるのに私だけ無いの」
恥ずかしかったと言う訳か......。
「それより本当に暮山さんも予定無かったんですか? クリスマス」
ハッとする。予定......。ルイカルさんを待たしている。連絡しなければ。慌ててスマホを探す。
「その急ぎよう。やっぱり、今日予定あったんですね......」
デスクの上を探す。
「あの後、出来たんだ」
「......へ、へぇー」
無い。
「それじゃあ、早く帰らないとですね......」
「そうだな」
床に転がってる。
「じゃあ、私も帰ろう......」
さっき倒れた時に転がってるたのか......。
ん?
振り向くと彼女が泣いていた。
「汐路さん?」
「何、ですか?」
涙声だ。
「何で泣いて......」
「泣いてませんっ」
汐路さんが悲しむ理由を探す。
何をした? 俺は汐路さんが悲しむ事をしてしまったのか?
だとすれば何を......。
ある1つの可能性を導き出す。
「もしかして。俺に予定があるって知って、泣いてくれてるの?」
涙の量が増える。呼吸も荒くなる。
「何でですか? 自惚れないで下さいっ」
言葉尻も弱い。
「今日の予定。相手、男だから」
俺も必死だ。好きな人の悲しむ所なんて見たくない。その原因が自分ならなおさらだ。
「そんなの......信じられる訳、無いじゃ無いですかっ......」
「本当っだって、ほら......」
俺はスマホを見せる。
画面には筋肉隆々とした男のアバター。
「今日の俺の相手、これだから」
「......えっ?」
汐路さんが驚く。固まる。
「どうしたの?」
「これ……」
何か衝撃の事を言われる。そんな予兆。
「——私です」
「えっ......」
次に驚いたのは俺だった。
理解が追いつかない。必死で考える。
ルイカルさんは女性。しかも目の前に居る汐路さん。
過去を振り返る。ルイカルさんには本当の自分で接してきた。
ルイカルさんは俺の素を知ってる。て言う事は汐路さんも……
焦る。心臓の鼓動が激しくなる。やばい。嫌われる。呆れられる。終わった。
「シアンさんって。暮山さん......だったんですね......」
がっかりしてる……?
「でも、良かったです......」
何が......?
「私。シアンさんの事、とっても好きだから......」
それって......
「暮山さんで嬉しい」
泣き止んでいた。
真っ赤にした目で微笑む。
脳の処理が追いつかない。
それって......。
スマホの画面を見る。
通知が、一件。
ルイカルさんから。
『大見栄きってすまない。今日は帰らせて頂く。好きな人の元へ行かなくてはならない』
ルイカルさんが汐路さんって事は......。
「このメッセージも汐路が送ってくれたって事?」
汐路さんの顔が真っ赤に染まる。
「そ、それは......」
言い訳。言い逃れ。誤魔化し。それらを考える。
しかし、すぐに堪忍する。
「もう、白状します。……暮山 翔太さん」
「はいっ」
背筋を正す。
「私は……。ルイカルこと『汐路夕』は——」
緊張する。
「——貴方の事が——」
目と目が合う。
「——大好きです」
僕が好きになった相手は @TORIx
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