こもり その3


 昼食のあとルゥはエリとリビングのソファで昼寝をし、俺はキッチンでおやつを作っていた。普段はあまり作らないけれど、今日はルゥが来てるからとレシピを見ながらクッキーを作る。


「ひなぁ…」

「あれ、ルゥ?」

「のど、かわいた…」


 型抜きをしているとルゥが寝起きなのかぽやっとした様子でキッチンに来た。ルゥのためにミルクをカップに入れているとクッキーの生地に気付いたのか背伸びをしながら生地を見て尻尾を振っている。心なしか目もキラキラと輝いているように見える。


「これ、なぁに」

「クッキーの生地だよ。今、型抜きしてるんだけどやってみる?」

「うん!」

「それじゃあミルク飲んだらやろうか。準備するからね」


 カップを机に置きながらそう言えば慌てたように椅子に座り、両手でカップを持ってミルクを飲んでいく。その間に踏み台やエプロンを用意してやり、ミルクを飲み終えたルゥにエプロンを着せ手を洗わせる。踏み台にルゥが乗れば型を近くに置き、好きなものを選ばせた。


「型、少ないけど好きなの使っていいからね」

「うん」


 ルゥは犬やコウモリの型を手にすると楽しそうに型抜きをする。俺も隣でルゥが使っていない型を使って型抜きをし、天板に並べていく。


「ルゥ、上手だね」

「ママとね、したことあるよ。ぼくがやったの、ひな食べてね」

「じゃあ俺がやったの、ルゥ食べてくれる?」

「うん!」


 天板いっぱいに色んな形のクッキー生地を並べるとオーブンにいれ焼いていく。ルゥは踏み台をオーブンの前に移動させて焼けていくクッキーを眺めているので片付けをその間に済ませる。


「ひな、いいにおい!」

「あんまり近付いたらだめだよ。ほら、こっちおいで」


 しゃがんで腕を広げてやると笑顔を浮かべながら抱きついてくるルゥ。


「えへへ、ぎゅー」

「ぎゅー」

「ひな、いいにおい…」

「ルゥはなんだか甘いにおいだね」


 抱き上げて頬を撫でてやるとポッと頬を赤くするルゥに俺は思わずくすりと笑ってしまった。それを見たルゥは少し拗ねたように頬を膨らませる。


「わらわないでぇ」

「可愛いから、つい。ふふ」

「もう…ぼく、かっこいいのがいい…早くおっきくなりたい」

「エリみたいにおっきくなりたい?」

「うん、おっきくてかっこよくなりたい!」


 すこしきりりとした表情で言うルゥ。そんなところも可愛くて頬が緩む。大きくなったルゥはきっとエリとはまた違う美丈夫に育つだろうな。


「エリくらいおっきくなったらもうこうやってだっこできないからちょっと寂しいかも」

「ひな、さみし…?」

「ちょっとね。でもおっきくなったルゥも見たいなぁ」


 ぎゅーっとルゥを抱きしめていると後ろから抱き締められた。振り向くと不満そうな顔のエリがいた。


「いい匂いがしてきたと思ったら…」

「えりにぃだ」

「エリ」

「胡宵は俺のだからな、やらないからな」


 ルゥに威嚇するように言うと俺の項をがぶりと噛むエリ。それを見て、はわわっと頬を赤くするルゥ。俺は少し置いてけぼりにされているような。

 複雑な気持ちで噛まれた項に触れているとオーブンが鳴った。

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