新月の日 その2


 新月の日。

 本当は毎日一緒に居たいけれどこの日の夜は何の因果か普段はそんなに無い吸血欲が抑えきれなくなるのでそれとなく誤魔化して来ないように言いきかせた。昼に食事を持ってきてくれたのは有難かったけど逆に恋しくなってしまった。


「取り敢えず…血とご飯…」


 日没後、この日の為に用意していた血液と恋人が用意してくれた食事を食卓に持っていく。出来たら恋人の血が一番いいのだけれどそんな贅沢はしていられない。下手したら貧血にさせてしまうし、何より何時もしない様な乱暴な扱いをしてしまいそうで怖いのだ。彼のことは傷付けたくないし、怖がらせたくもない。


「いつまでも、一緒にいれたら、なぁ…」

「俺は一緒におじいちゃんになるつもりなんだけど、エリはちがうの?」

「おじいちゃんにはなれるか、わから、ない…?」


 独り言を呟いたつもりだったのに言葉が返ってきて不審に思ってドアの方を見ると、そこには今いる筈もない恋人の姿が。

 思わず椅子を倒して立ち上がると彼は苦笑しながら頬を掻いた。


「昼に来たとき、ぼんやりしてたから心配できちゃったんだけど…」

「だからって…ああ、もう」

「エリ、ごめんね」

「怒ってるわけじゃないよ。その、今日はその…」


 ちらりと外を見る。ちょうど太陽は隠れ、月の見えない夜が始まるような時間のようであたりは暗くなりかけていた。

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