神々の意思

キャットウォーク

第1話 無空間

まだ宇宙と呼ばれる前の広大な暗黒世界が存在した。

無空間である。


光はまったくなく絶対0度の極限世界。

エントロピーの完全飽和状態の世界である。

そしてこの空間には素粒子すら無い真空の世界。


ここに物が1つあったとして大きさが分かるだろうか?

大きさとは物を比べて初めてわかる。

物が1つ以上あれば、1つを基準にし大きさがわかる。

また距離も同様である。

時間も変化する物がないと分からない。

なぜなら時間は一定間隔で変化する周期性があるものを単位とする。

変化の無い世界では時間さえ意味をなさない。


そのような暗黒世界に、人の手のような物が突然現れる。

手の大きさは分からない。

銀河系より巨大なのか、あるいは蟻の触覚より小さいのか・・

いずれにせよ大きさを言うのは無意であろう。


現れた手は半透明で透き通っていた。

そして手首より先は無い。

その手は、左手のようである。


しばらくすると、その手が消えた。


また、しばらくすると右手が現れる。

これも手首より先がなく半透明である。

ただ、親指と中指で何かを摘まんでいる。


やがて、この親指と中指で摘ままれている何か。

半透明だったものが、ゆっくりと手前に移動してくる。

観察者がいるとして、その観察者に向って突き出されるイメージである。


移動してくると、その何かは、徐々に色がつき始め形が見え始める。

そう、まるで濁った水のなかから、物が水面に突き出るイメージだ。

水底にあるうちは見えない。

水面に近づくと、徐々に形や色が見え始める。

そして、水面から出た部分は、はっきりと色形が分かる。

そういうイメージだ。


今、まさに手に摘ままれたものが、はっきりと見え始めた。

先端は尖っている。

先端から少しづつ膨らんだ形を見せ始めた。

やがて指もはっきりと見え始める。

摘ままれていたものはアーモンド型をしていた。

何かの種子のようだ。

そして、種子1粒が完全に見えるた所で動きが止まった。

すると、親指と中指は摘むのをやめて、種子を離した。

重力が存在しないので種子は離された位置から微動だにしない。


そして手は出てきた位置に戻り始める。

あたかも湖の底にもどるかのように・・・


そして、種子だけが無空間にぽつんと残された。


残された種子は、真っ暗な巨大な空間のなか、孤独に浮遊している。

浮遊といっても、どちらが上下で、どちらが左右かもわからない空間である。

移動しているのか、止まっているのか、回転しているのかも分からない。

そういう意味では浮遊していると言えないかもしれない。


残された種子、これはいったい何なのだろうか?

そして、なぜこの無空間に置かれたのだろうか?


現れた手は別の空間から現れたように見える。

では、なぜこの無空間に現れたのだろうか?


何もない空間にぽつんとある種子は何も語らない。

種子は何も変化せず、そこにあるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る