エピローグ。或いは葬送の。

もう数刻になる。

前線は混じり合い乱戦。続々と投じられる兵力。大帝国側は数に任せて押しつぶそうとするが、王国側は地の利を生かし、前線を支配している。迂回しようにも、川。後背を突こうにも、山。正面は谷。王国兵は木立や岩陰に巧みに潜み、帝国軍の勢いをそぎ落とす。統制こそされてはいるが、それだけに柔軟さに欠ける大軍を、少数の精鋭が制している。

遥か後方、帝国軍の陣地。大軍勢を率いるは、若き智将。その蒼き衣は空には溶けず、海には沈まない。他の将軍が苛立ちを隠せない中、彼はじっと、戦場を俯瞰していた。

前線を割って、駆け上がる一団の騎馬。殺到する帝国兵を歯牙にも掛けず、一目散に駆け上がる。先頭は王自ら。白銀の馬。金の髪をなびかせ、白虹の鎧に、黒金の槍。撥ね飛ばし、突き崩し、薙ぎ払う。ただ、怒涛のごとく駆ける。

蒼の将軍は、それを睨んで、ついに動き出した。右腕を気怠げにあげ、空間を開く。引き出したるは、異界の弩。黒く艶消し、銀の引き金。銃身は長く獲物を指す。その重さに腕は下がり、その時を待つ。

兵を蹴散らし、十人隊長を撥ね、百人隊長を斬り伏せ、千人隊長を穿つ。近衛を踏み砕き、衛兵長を蹴り殺し、将軍を二人貫いて、王は蒼き運命に向き合う。

「その、その弩!ひと時とて忘れたことはない!」

なおも縋る近衛を薙ぎ払い、首を落とし、その姿はまさに軍神。戦さ場こそ住処。血を飲み、骨を食む。獣の王のごとき姿で迫る。

「この化け物め、如何なる妖術を用いたか。その姿、全く変わっておらぬだと」

「えぇ」

それはまさに運命。あの日、あの悲劇を演じた男が、現し身のまま、其処にある。あの日と同じ弩。あの日と同じ眼光。あの日と同じ、蒼。

「姿が変わっては、見つけていただけないかと思いまして」

「貴様……」

王は槍を高く掲げる。美麗な文様が炎を吹き上げる。これこそが王の怒り。尊いものを無残に奪われた、ある青年の慟哭。

「伐つ!今!ここでだ!」

鋭い槍の一撃を、筒先の短剣が弾く。弩は、そのまま槍であった。

「どうぞ。お受けいたします」

2度飛びのいて、運命は恭しく頭を垂れた。その様に、近衛は二人を取り囲む。獅子の紋章が描かれた大楯が、彼らを戦場から隔てる。剣は盾を叩き、彼らを囃し立てた。

王は大地に槍を突き立て、膝をつく。

蒼は直立し、弩を縦に構える。

「我らの血を」

「麗しの姫君に捧げます」


雨は、大地を洗う、赤く染まる大地を。

蒼は、雨には抗わなかった。

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