彼は自ら、喪失に飛び込んだ

断言しよう。
読者の心を映す鏡となる物語である、と。

主人公の束田は、
愛し、尊敬する先輩、坂島を喪う。
「それだけの物語である」。
敢えて、そう申し上げたい。

ただ、それだけの結末の先に、
一握りの未来が示される。

その未来を、
読者であるあなたがどう描くのか。

それらはあなたの心が、気持ちが、
ここまで生き、過ごしてきた境遇が、
この静謐で、はかなく、
どこか艶めかしくさえある物語に触れ、
どう響き、揺れ動いたか、による。


読み終えた時、ああ、と唸った。

それは、散りぎわの桜を
眺めるがごとき心地だった。

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