第3話

 K高校の文化祭、周囲はうわさ話で盛り上がっている。


「ねえ、『CROW WING』のRYUさんとNATUOさんって、ここの学校の卒業生みたい!」


「ええーマジで! めっちゃ楽しみなんだけれども!」


体育館では、『CROW WING』の噂話でもちきりであり、その騒がしさで何度も教師の雷が落ちるのだが、それでも周囲の騒ぎは消えない。


「あのう、『CROW WING』のライブ会場はここで宜しいのかしら?」


ある一人の、紺のステンカラーコートを着た女性は女子高生と男子高生に尋ねる。


「ああ、ここっすよ」


「有難う」


その女性は、ライブ会場の体育館内へと入って行く。


「うーん……」


「どうしたの?」


「いやな、あの女の人どっかで見た事があるんだけれどもなあ……」


「人違いでしょう? ライブ始まっちゃうよ」


「あ、ああ…‥」


壇上には、『CROW WING』の名前の入った旗が置かれている。


 

竜は、伸びた髪の毛を指でいじりながら、体育館の中にいる大勢の観客を見て溜息を付く。


「俺達人気になっちゃったんだなあ……長かったなあ」


隣でコーヒーを飲んでいる夏男は、首をぽきりと鳴らす。


「ああ、卒業してから12年ぐらいかあ……あっという間だったなあ」


「そうだなあ……」


――夏男と竜は卒業後はそれぞれが音大と音楽の専門学校に行ったのだが、20才の時成人式で再会を果たし、その場のノリで2人組のバンド『CROW WING』を結成した。


長い下積み生活の末にメジャーデビューを果たし、日本で知らない人間はいないとまで称されるバンドとなった。


「ライブ前にお前に紹介したい人がいるのだがな……」


「何だ? ファンか何かか? いや俺女には興味ねえぞ」


「ど阿呆、お前それだから未だに童貞なんだよ、まあとりあえず入ってきてね」


竜はドア越しにそう言うと、紺のステンカラーコートを着た女性が部屋の中へと入ってくる。


「……久しぶりね」


「春子……お前、確か……」


「そう、つい先日に議員になったわ」


「……俺、ちょっと先に行くからな」


竜は彼等を気遣っているのか、先に出て行ってしまった。


「夏男、私との約束は忘れては無いよね…‥?」


「ああ、忘れるものか。今まで俺は彼女はいない、あの時の約束はまだ守っているんだ…‥!」


「そう、私、離婚歴あるけれどもいい? 子供はいないけれども」


「いいよ」


「……嬉しい」


彼等は、その場で抱き合った。



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明日の黒板 @zero52

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