人は標を求める

もしも今、宇宙の中に一人だけ放り出されたら?
想像したことがあるだろうか。
漆黒の闇。完全な無音。
四肢を伸ばしても、触れるものが何一つない空間。
上下も左右もわからず、地面もない。

そんなところに放り出されたら、私なら狂うのに何分とかからないだろう。

人はベース(標)となるものを求める。
それは地面だったり、時間だったり、我が家だったり、母の腕の中であったり、父の大きな手であったり、人によってまちまちかも知れない。
だが、確実に言えることは「標なしには自分を見失う」という事だ。

しかし、標は絶対的なものではない。
その大地がいつまでもあるとは限らない。
自分の考えていた時間と違う時間が流れ始めることもある。

物事は絶対的なものではなく、相対的な事で成り立っているのだ。
だが、人は心の安寧の為に相対の中に絶対を求める。
それがあるだけで落ち着けるのだ。

ならば、標を失った時、人はどうするのだろうか?

その問いに正面から立ち向かった二つの国は、かつては友好国であったが、現在はあまりその関係は芳しくない。
海の国の王と山の国の王子は、秩序を失った民の標となるべく、それぞれの国の宝である石に未来を託す。

碧玉と桜珊瑚。
片や海の色を映し出した、山の石。
片や花の色を映し出した、海の石。

天の動きを標とした海の民と、時の流れを標とした山の民の英知が一つになる時、世界は再び動き出す。

全てのシーンの描写が絵画のように美しい。
本格的なハイファンタジーに飢えている人にこそ読んで欲しい珠玉の一遍である。

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