出逢ってしまったのなら、もう一直線ですっ!(後)

「見た所旅の御方だと思うのですが、この里の中でしたら私が御案内しますよっ?」


 少しでも長くこのイケメン様と一緒に居れば、何か仲良くなれる切っ掛けを掴めるかもしれませんっ。これはその為の口実です!


「いや、しかしキミの用事は構わないのか?」

「す、少し位なら平気です。それよりぶつかっておいてこのまま何もしないでいては、私の気が晴れませんので……」


 本当はばっちゃまの家に急いで行かなければならないのですが、それはもう、後で私がしこたま怒られれば良いだけの事です! はい!


 イケメン様はしばし黙って私の方を見ていましたが――


「そうか。……ではその言葉に甘えさせて貰うとしよう」


 ――と、そう言ってくれましたっ。


「はいっ、甘えてくださいませっ!」


 思わずノータイムでそう返してしまいました。でもその、さっきの台詞が良かったものでつい……。


 甘えさせて貰う、かぁ。この台詞、イイです……なんていうか私の心がじんわり温かくなりますっ。


「え? あ、ああ……」


 ……はっ! イケメン様、私に対して少し引いてしまってる感があります。いきなり『甘えてください』は飛ばし過ぎたかもしれませんっ。


 い、急いで話を先に進めましょう!


「で、では行きましょう! 目的地は何処でしょうか? あ、私は萌葱と云います、良ければその、そちらのお名前も教えてくださいませっ」


 くぅぅ、つい随分とまくし立ててしまいました。


 私知ってるんです。いきなり早口になるのは異性慣れしていない者の、如何にもな特徴だって。


 でもでもっ、それでもイイなと思った人には一生懸命にならざるを得ませんもの! はいっ!


 一人心燃やしている私を、イケメン様はずっと冷静に見ています。


 こんな風に冷静なたたずまいで居るのが、この御方のなんというか、基本の姿勢なんだろうな。


 なんてことも無い事かもしれませんが、出逢ってすぐに相手のそういう特徴が分かるというのは、なんかイイなってそう思います。はいっ。


「俺の名は水ノ琶みずのはだ。キミの事も、そのまま萌葱と呼ぶぞ」

「はいっ。わ、私は水ノ琶様と呼ばせていただきますね!」


 水ノ琶、かぁ。素敵なお名前ですっ。


 これはイイ感じかもしれません。次は機を見て住んでる場所など尋ねるとしますっ。


「目的地だが、倮々ららと云う巫術士の家だ。俺は彼女にどうしても逢わなければならん」

「えっ!?」


 ま、まずいですっ!


「……無理な頼みだったかな? 実は既に他の者にも家の場所を尋ねていたんだが、皆『彼女は余所者を嫌うから教えてやれない』と言って断ったんだ」


 それ、私には分かりますっ。だ、だってその倮々ってばっちゃまの事ですもの!


 ばっちゃまは確かに余所者を嫌います。だから水ノ琶様を連れて行けば、怒られる上に、更にげんこつのオプションが付く可能性も……。


「キミもそうなら無理はするな。倮々は有力な巫術士と聞く……その彼女と同じ里に暮らす者が彼女の意を尊重するのは、当然の事だろうと理解出来るからな」


 あああっ、なんて聡明でかつ奥ゆかしい御方なのでしょう! 自分は余所から来た旅人だからと自ら一歩下がるその慎み深さが、私の心にはとても眩しいですっ。


 ええい、げんこつが一体なんだというのですかっ!!


「ここまで来てそんな事仰らないでくださいっ! 私はちゃんと案内しますから!」


「しかし萌葱、倮々の名を聞いた途端明らかにキミの顔色が悪くなっているぞ?」

「も、元から顔色は安定しないんです私っ! ほらあの……見ての通りの痩躯なのでっ、はいっ!」


 ――ぐふっ、自分で言っといて何よその誤魔化し方はってそう思っちゃいましたっ。


 いやそれ痩躯云々の次元超えてもうなんか別の病気じゃないですかっ、ウソ吐くにしてももっと有るでしょう私っ!


「……まあ、そういう事なら良いが……」


 あ、水ノ琶様ちょっと天然……なんか可愛いです……。


 痩躯である事は自然に認めてくれてる所とか、特に……。


「ばっちゃ……倮々様の家ならこちらの方向ですよっ」


 とにかく、ようやく進み出す事が出来ました。――くぅぅ、素敵な殿方と二人で歩くというのは、なんかとてもそわそわして良い気分ですねっ。


 ――おしまい、或いは本編へと続く?――

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龍の息吹く大地にて、萌葱の愛は駆け抜ける ~プロローグ~ 神代零児 @reizi735

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