読
①
「先生は怪談を集めていらっしゃるんですよね」
由美子さんは唐突に「まるだいの会」でそう切り出した。
「集めているというのは言い過ぎですけど、そうですね、興味はあります」
まるだいの会は、SNSの中で出会った大学同窓生を募ったグループだ。三年ほど前に初めてオフ会をして、それからちょくちょくこうして集まって、とりとめのない話をしている。年齢も職業もバラバラだ。私はSNSで公開した落書きのようなマンガが話題になり、それがきっかけでマンガを一冊出したので、由美子さんのように私のことを先生、と呼ぶ人もいる。恥ずかしいのでやめて欲しいのだが。
「そんな謙遜して。先生のマンガ、いつもどこかで聞いた怪談の漫画化でしょ」
「ええまあ、そうですね」
私は少しムッとしながら答える。オリジナリティがないとでも言いたいのだろうか。
「あ、ごめんなさーい、気を悪くしないで下さいね。聞いた話でも画像?視覚的効果?が付くと段違いっていうか、とにかくファンですから!」
「それはどうも」
私は早く話を切り上げたくなり、机を指で叩く。まあ、こんなアピールで気付いてくれるほど敏感な人ではないだろう。由美子さんは私より10歳ほど年上の専業主婦で、親切なのだが空気が読めないところがある。私と同じようにホラーコンテンツはなんでも好きで趣味は合うのだが、優しくて有名な赤井さんが由美子さんのせいでまるだいの会に参加しなくなってからすっかり皆から距離を置かれるようになった。由美子さんと話していると皆と話せないので、私もなるべく距離を置きたいところだ。それに今日は、いつにも増して挙動不審だ。しきりにあたりを見回して、きょろきょろと落ち着きがない。
「それでね先生、私先生にネタの提供してあげたいなーと思って」
なんて恩着せがましい。しかし、最近の私の投稿に対するコメントは「またコピペの焼き直しかよ」「不安の種のパクリ」などの酷評が増えてきた。
そう、早い話がネタ切れ。例え鬱陶しいオバサンでも、ネタの提供はありがたい申し出だ。
「もちろん謝礼とか、頂きませんから、安心してくださいねぇー」
私は再びイラつきながら、
「ありがとうございます、でもこの会、怖い話苦手な人もいますし。この後どこかでお茶でもしながらお話しませんか」
「いーえー、とんでもない!」
由美子さんは首を何度も横に振った。そして声を落としてこう言った。
「私、後で先生にメール送ります。作品に昇華させるには、何度も読み返したいでしょう?そう思ってもう書いてあるんです。ファイルにして送りますから。本当に怖いんですよ!早く読んでくださいねぇ」
由美子さんはお辞儀をすると、似合わない少女趣味の服を揺すりながら、お先に失礼しますと言って店を出ていった。
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