④
私が読み終わるのを待っていたかのように由美子さんからの着信がある。
本当にどこからか監視しているんじゃないのかと考えてしまうほどに。
無視していても由美子さんは諦めないだろう。嫌だけれど電話を取る。
『先生よ、み、ま、し、た?』
「ええ、三つ目を。ていうかこれ、ブログのリンクじゃないですか。思わず踏んじゃいましたよ。ウイルスだったらヤバいって思って焦りました」
わざとおどけた口調で言っても、何も返答はない。由美子さんは私が感想を言うのを待っているようだった。
「由美子さんが作ったんですか?ブログ形式なんて、リアリティがあってゾクゾクしました。写真も付いてるし。ただ展開が唐突というかよく分からないことも多くて。奈津子が慶一を愛子から奪って結果的に愛子は堕胎することになった、その恨みから愛子はおかしくなってしまって……というのは分かるんですが、姫だるまモチーフの意味が分かりませんし、最後の7つの言葉も」
『本当に分からないの』
背筋を虫がのたうつような、冷たく、それでいて粘着質な声だった。
『子供がもて遊ぶと健やかに育ち、病人が飾ると起き上がりが早くなるといわれ信仰にまつわる心意を示す玩具です』
「ええ、姫だるまの説明でしょうそれ。気になって調べたら愛媛県の民芸品なんですね。可愛らしいのもあるけど、確かに不気味と感じるかも」
『豊穣赤ちゃん神様天井医者まびきだるま、これで分からないなんて笑えます』
「ちょっと由美子さん、さすがに失礼じゃないですか」
私は恐怖を怒りで紛らわすかのように思っていたことをぶちまける。
「思ったことなんでも言っていいわけじゃないですよ。由美子さん、空気が読めないし人が傷付くことを平気で言うところがあるでしょう。私は趣味が合う人も少ないしギリギリ我慢していますけど、正直嫌われてますよ」
『……すいません、先生、許してくださいねぇ』
由美子さんは急にしおらしくなって甘えるように言った。私も少し言い過ぎてしまったかもしれない。人を傷付ける人をお返しに傷付けていいことなんてないのだから。
『でも、でもね先生、先生には気付いて欲しいんです。全ての話はひとつなんです』
「なるほど、そういう形式の。ミステリーも好き。謎解き頑張ります」
恐らくこれは実話ではなく、由美子さんの創作なのだろう。創作ができるなら、小説投稿サイトで発表するなりしたらいいと思うが、数少ないホラー仲間の私に最初に見せてくれようとしたということなら悪い気はしなかった。
『分かれば、面白いですからねぇ』
「ですね。じゃあ最後まで読んで、それから答え合わせしたいです」
『待ってますねぇ』
由美子さんは電話を切った。全部読んでくださいねぇ、と言いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます