『せんせーい!どうでしたあ?読んでいただけましたあ?』


 由美子さんがSkypeでそう話しかけてきたのは、メールが送られてきた次の日だった。相変わらず甘ったるいような粘っこくて嫌な声だ。


「メールありがとうございます、まだ一つしか読んでいませんけど」


 当たり前だ。専業主婦の由美子さんと違って、私には仕事がある。SNS漫画の更新はあくまで副業、趣味のようなものなのだから。


『ええっ!早く読んでくださいねぇ、そんなに長くないんですから。ところで、どうでしたあ?』


「ええ、まあ、怖いと言えば怖いですけど……正直ありきたりですよね。実話系怪談で何回も見たような内容です」


 田舎で怖い目に合う、白い得体の知れない何かを見る、そのあとなんらかの不幸が起こる。ネットの怖い話でいうと「くねくね」の類型と言えるだろうか。


「それに最後の『いぬる』とか祖父母の不幸とか……いぬるって方言で帰るという意味ですよね。要は神棚を粗末にしたから神様が去ってしまった。だから不幸が起こった。ちょっと説教臭いというか」


『イヤッ』


 由美子さんが突然大きな声を出す。


「どうしたんですか?」


『いえ、大丈夫、大丈夫です。ちょっと虫が飛んできちゃって。もう殺したから大丈夫』


「虫って……本当に大丈夫ですか?」


 そう確認してしまうレベルで尋常ではない叫び声だった。


『……大丈夫ですから。それより先生、それは序の口ですから』


 由美子さんはウフフ、とわざとらしく笑った。


『早く全部読んでくださいねぇ、そしたら怖いってわかりますから。感想、楽しみにしてますねぇ!』

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