第6話 動き出す2
一週間たった。
もう手紙はお母さんに届いただろう。
まだかな。返事が待ち遠しい。ワクワクしている。毎日、家のポストを確認していた。ひょっとするとお母さんはびっくりしているのかもしれない。
二週間たった。
ちょっと不安になる。
何かあったのかな。まだお母さんからの手紙は来ない。どうしよう? もしも、このまま返事がなかったら……。
三週間たった。
ああ、やっぱりそうか。
ぼくのことなんてもう忘れたのだな……。返事がなかった。もうあきらめようかな。いや、もう少し信じて待ってみよう。
一ヶ月がたつ。
返事はない。ぼくは裏切られた気分だ。どうしてお母さんは何も返して来ない? また光を失う。もういい、もういいよ……。
立ち直ることは出来なかった。
それからおばあちゃんに電話をしてみる。
「現在、この電話は使われておりません」
それを聞いてぼくは何回も電話をかけた。けれども、つながらない。どういうことだろう。ものすごい不安になった。何かあったのだろうか。
それっきりおばあちゃんから連絡は来なくなる。
完全に光を見失う。
ぼくはどうしたらいいんだろう? まさかお母さんとおばあちゃんから見捨てられるなんて。いや、何かがあったのだろう。
お父さんにそのことを話した。「そうか」それだけしか言わないお父さん。ぼくは信じられなくなった。何もかも。もう生きていても自分に意味を見つけられなくなる。
アルバイトを虫の息で続ける。
いつ死んでもいい。
ぼくは現実に打ちのめされていた。
二十七才の六月。雨が降っている。今日はアルバイトは休み。部屋のなかで横になっている。何も考えたくない。何もしたくない。早く死にたい。
雨の音がただ聞こえる。
何も感じない。
ねぇ、ぼくの人生ってなんだったの? ゆっくりと起き上がる。誰か教えてよ? もうどうにでもなれ。死んだら楽になれる? 自分の首を自分の両手で強くにぎる。
その時だった。
知らない電話番号からの着信。
ぼくは少しためらって出た。
「もしもし……?」
「あ! よかったー、もしもし。お母さんだけど! 私の声、わかるかな!?」
ぼくは返事をするのにちょっと時間がかかった。
「……お母さん?」
「そうよ! あ、電話をした理由なんだけど、おばあちゃんが昨日に亡くなったの……」
ぼくは言葉を失った。
「それでね、おばあちゃんのお通夜に来られるかな? 出来れば、お葬式もだけど」
ぼくはなんとか「わかった」と答えた。
そして、お母さんとは亡くなったおばあちゃんの家で再会する予定になる。
電話を切り、泣きたい気持ちを抑えた。まさか、こんな形でお母さんの声を聞くことになろうとは。
お通夜は明日、お葬式はあさって。
アルバイト先にはおばあちゃんが亡くなったと伝えて休むことになる。お父さんにも言っておいた。
お母さんを信じなさい。ふと、おばあちゃんのその言葉を思い出す。そうか、もうその言葉は聞かなくていいけど、同時にさびしさが全身を包んだ。
おばあちゃんとの最後のお別れ。
信じられない。
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