第2話 その先
お父さんはお母さんを必死で呼び止めていた。しかし、全く聞く耳を持たないお母さんだった。言い争いで二人の気持ちはどうなるのだろう。ぼくはそれを見て怖いなぁと思っていた。それよりもお母さんに何があったのだろうか。
お母さんの方のおばあちゃんに電話してみる。おばあちゃんはぼくの話を聞いて「そうかい」とだけ繰り返す。
「おばあちゃん、どうしよう?」
「安心しなさい、お母さんを信じなさい」
「うん……」
しばらく通話をして切ったぼくはお父さんとお母さんの様子を見に行く。リビングにはお父さんだけが居た。お母さんはいない。恐る恐る聞いてみる。
「お父さん? お母さんは?」
「出ていったぞ」
え……。
どうして?
ぼくは言葉が見つからなかった。何も言えずに立っている。時間が過ぎていく。いや、これは何かがおかしい。どういうことなんだろう。
自分の部屋に戻って考えてみる。ぼくは何か悪いことでもしたのだろうか。必死に思い出してみる。けれども、いくら思い出しても心当たりはなかった。
布団に横になる。そう言えばぼくはこんなことを望んだっけ。お母さんなんていらない、って。もしかしたら、それが叶ってしまったのかもしれない。
不安になってくる。ぼくはとんでもないことを願ってしまった。でも、これからはお母さんが居ないから自由だ。怒られないし、口うるさく言われることもない。
そうだ、物は考えようだ。
でも……お母さんが居ないとさびしい。
どうしよう……。
ぼくはそのまま眠りに入った。
これは夢なのだろうか。空は黒くて大地は白い。広い世界にはぼく一人だけのようだ。ふと横を見るとお母さんが立っている。お互いに言葉はない。ただじっと見つめ合う。
お母さんが歩き始める。あとをついていくぼく。何も言葉はない。一歩一歩と歩いて行くうちにお母さんの姿が消えていく。
「待って! お母さん!」
ぼくは夢の中で泣いている。なぜか目が覚めない。どうして? どうしてお母さんはぼくを置いて行くの?
何かが聞こえる。
ああ、目覚まし時計の音だ。
徐々に夢と現実の境界が明らかになる。
ぼくは布団から起きる。そして、リビングに向かう。お母さんは居るのかな? しかし、お父さんだけしか居ない。
「お、早いな?」
「……やっぱり寝る」
お母さんはどこかに行ったんだ……。
布団にもぐり込んで行き場のないさびしさに襲われる。何度、寝返りを打とうが逃れられない。朝の光がこんなに苦痛に思うことは今までなかった。
「朝食はいらないのかー?」お父さんの声。
ぼくは何も言わなかった。
ドアをトントンとノックするお父さん。
それも次第になくなった。
どうしてなんだろう。哲学として考えてみる。なぜお母さんが居なくなった? しばらく答えを探してみる。考えるうちにぼくは涙が出そうになる。
お母さんは帰ってくるのだろうか。
おばあちゃんの言った言葉を思い出す。
お母さんを信じなさい。
そうだ、信じよう。お母さんはきっと帰って来てくれる。ぼくはお母さんを信じる。安心しよう。自分に言い聞かせる。とりあえず、今日は学校を休もう。
お母さん、いつ帰ってくるかな……。
それから毎朝、ぼくは起きられなくなった。なんでだろう。もう目覚めたくない。それなのに起きなくちゃいけない。どうして? 学校から遠のいてゆく毎日。不登校。そしてお父さんとお母さんは離婚した……らしい。
高校は通信制と言うものに転校することになる。単位を取得していくものらしい。登校は今よりも自由になる。昼からの出席でもいいらしい。朝が起きられなくなったぼくからすれば助かる。
同時に精神科の先生に診てもらうこととなる。個人病院、家から車で十分の所にある。先生は特に何も言わなかった。ぼくの考えや思いや話をたくさん聞いてもらえた。それで楽にはなれた。
お母さんは家に帰れなくなっている。
お父さんと離婚したから。
お父さんと二人暮らし。
ぼくはその生活に慣れていく。
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