研ぎ澄まされた衝動。一人の青年の生きざまをとくと見よ。

ほんのりとアウトロー感が漂う、青年と少女の放浪記(と、なっていくものと思われる)。

決して楽な道を辿ってきた訳ではないからこそ、青年ナダの苦悩、ところかしこに散りばめられたその感情表現は切実で、精巧で、心に刺さる。

登場キャラクターは、皆どこか親しみを感じる現実味がありながら、とても個性豊か。賑わしいやり取りを見ているだけでもどこか楽しくなる。

そこへ蔓延る陰謀、忍び寄る追っ手。
刃の切っ先のような緊迫感は、ストーリーを決して安心できないものへと引き締める。
だからこそ、穏やかな時間、気の置けない親しい人たちとのやり取りが輝くのかもしれない。

この作品のミソは、現実とフィクションのバランスが絶妙であり、どこか読者に親しみを抱かせるところにあるように思う。

良い意味で不安定で、衝動的。
一風変わったSFだが、心を惹き付ける力作。

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