もうね、文章がめちゃくちゃうまい。
丸ごと暗記してお手本にしたいくらい。
私、ホラー小説は大の苦手なんですけど、この作品はあまりにも文章が素晴らし過ぎて大興奮しながら読みました。
この作品には虫などの小動物が登場しますが、「生物の描写」と「生物の生態」と「主人公の不安や恐怖」が実にうまくリンクしています。
単に生き物を登場させるだけではなく、それらが主人公の恐怖心を煽るのに一役買っているのです。
たとえば、ヤモリ。
ただ登場させるのではなく、曇りガラスごしに見えることで主人公の「正体がよくわからないもの」に対する不安感を描いています。
また、このヤモリが逃げていくシーンを描くことで、実際に自分がその様子を目撃したような臨場感があります。
他にもオオミズアオを「人魂」と表現することで子どもらしい感性が出ていたり、檻に囚われた動物が主人公の状況を暗示しているように思えたり、ひとつひとつの描写からただならぬ気配を感じました。
そして、アレ(※ネタバレ防止)の描写がことさらリアル。
どの生き物の描写もリアルで生々しいのですが、アレについては舐めるような観察眼で描かれていて、作者様の文章力の高さをひしひしと感じました。
なぜここまでリアルに描かれているのか……と思いながら読み続け、最後に「なるほど!」と納得しました。
少し読み進めるごとに「この描写すごい!」「この演出すごい!」と興奮しながら読みました。
このような描写ができるのは作者様のセンスもさることながら知識によるところが大きいのではないかと思います。
作者様は虫や生物についてかなりお詳しい方だと感じました。だからこそ、このようなリアリティが出せるのでしょう。
誘蛾灯や三角缶といった言葉も勉強になりました。
ホラーと虫が平気な方には、ぜひお奨めします!
特に虫がお好きな方はかなり楽しめると思います!
あなたはまず、冒頭で一撃をくらう。
恐怖が頭にこびりついて、離れなくなる。
詳細に詳細を重ね、しつこいほどに生々しく描写された世界は、色や音、温度のみならず湿度まで感じることができる。
主人公が触れたものの感触すらつぶさに捕捉できるだろう。
そうだ。
恐怖を伴った美しさというものは、読む者の感覚を無理矢理鋭敏にする。
目をこじ開けられる。視界を広げられる。普段気付かなかった隅の汚れまで気になるようになる。見たくもないものを見続けてしまう、ずっと、ずぅっと、その虫の小さな口の周りまでもが鮮明になるまで……!
私は知らず知らずのうちに引き込まれ、この蟲の宿に一泊するはめになってしまった。
本当に怖い体験だった。
だがただ怖いだけではなかった。
どこか、懐かしい体験でもあった。
はて、そう言えば、私も子供の頃、このような体験をしたような気がする……。